足台への踏み出しによる腰椎彎曲角の変化--地域在住高齢者における検討

  • 松尾 奈々
    医療福祉専門学校緑生館 理学療法学科 西九州大学大学院 健康福祉学研究科
  • 村田 伸
    西九州大学 リハビリテーション学部
  • 宮崎 純弥
    目白大学 保健医療学部理学療法学科
  • 堀江 淳
    西九州大学 リハビリテーション学部
  • 溝田 勝彦
    西九州大学 リハビリテーション学部

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Other Title
  • 足台への踏み出しによる腰椎彎曲角の変化
  • アシダイ エ ノ フミダシ ニ ヨル ヨウツイワンキョクカク ノ ヘンカ チイキ ザイジュウ コウレイシャ ニ オケル ケントウ
  • 地域在住高齢者における検討

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Abstract

【目的】<BR>わが国の1ヶ月の腰痛有病率は,30~60歳代の男女ともに約30%,70歳代の男性は28%であり女性では47%と報告されている。このように高齢化とともに腰痛を有する人は増加し,特に女性で顕著となっている。この女性高齢者の腰痛の原因として,閉経後の骨粗鬆症や脊椎の加齢変化が報告されている。加齢に伴う脊椎変化は,生理的前彎を失い後彎化を呈する,いわゆる老人姿勢が特徴となる。高齢者における脊椎の変化は,加齢に伴い数十年間重力ストレスにさらされたうえ,労働や生活環境での不良姿勢など,種々の負荷がかかることにより生じている。そのなかで,腰痛症患者の立位時の注意として長時間の立位姿勢をとる場合,一側下肢を足台の上に置くことを推奨している。その理由は,立位時に足台を使用することにより腰椎前彎を減少させ,椎間板内圧に変化を与えるとされている。先行研究では,健常成人女性を対象に足台を使用した立位の際の腰椎前彎角の変化について比較検討している。しかしながら,加齢により脊椎の変形が生じると,足台に片脚を乗せた際の腰椎前彎角の変化が健常成人と異なってくると考えられるが,高齢者が足台を使用した際の腰椎アライメントの変化に関する報告は,渉猟しえた限り見受けられない。そこで本研究は,女性高齢者を対象に高さの異なる足台を使用した際の腰椎前彎角の変化について比較検討した。<BR>【方法】<BR>地域在住高齢者のうち,重度の認知症がない65歳以上の女性高齢者33名(年齢76.1±6.0歳,身長146.2±5.9cm,体重49.3kg±7.4kg)を対象とした。測定は,視線を正面に向けた安静立位姿勢を基準に,裸足にて一側下肢の足先の距離に設置した10cm,20cm,30cmの足台にそれぞれ片脚を乗せた姿勢の腰椎前彎角を測定した。腰椎前彎角は,インデックス社製のスパイナルマウスを用いて測定した。測定方法は,被験者の第7頸椎から第3仙椎までをセンサー部を移動させて測定した。今回分析に使用したのは,第1腰椎から第5腰椎までの上下椎体間がなす角度の総和である腰椎前彎角であり,前彎角を負で表記した。統計処理は,反復測定分散分析ならびにScheffeの多重比較検定を行った。なお,解析にはStatView5.0を用い,統計的有意水準を5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することについて説明し,理解を得た上で協力を求めた。<BR>【結果】<BR>腰椎前彎角は安静立位では-19.9±2.2°,10cm足台では-15.3±2.3°,20cm足台では-15.4±2.6°,30cm足台では-14.9±2.5°であった。腰椎前彎角は,有意な群間差(F=8.13,p<0.01)が認められ,多重比較検定において,安静立位に比べ10cm足台・20cm足台・30cm足台で有意(p<0.01)に高値を示した。<BR>【考察】<BR>今回対象とした女性高齢者では,高さ10cmの足台に片脚を乗せることで,腰椎前彎角が有意に減少した。加齢による脊椎彎曲角の変化は,脊椎後彎の増大を特徴とし,その多くが腰椎前彎角の減少を引き起こすと繰り返し報告されている。また,加齢に伴う腰部の可動域について,武政らは腰部の伸展可動域は有意に減少すると述べている。さらにFitzgeraldは,加齢とともにすべての可動域は減少するが,運動方向において著明な減少を示すのは腰部の伸展であると報告している。そのため,立位姿勢の際の過度な腰椎前彎は,加齢による脊椎彎曲角の変化を呈している高齢者には困難であることが考えられる。したがって,腰部の伸展可動域に制限を有する高齢者は,足台に片脚を乗せることで立位姿勢の際の過度な腰椎前彎角を減少できることが示された。以上の結果より,女性高齢者が立位姿勢で高さ10cmの足台に片脚を乗せることで,腰椎前彎角の有意な減少を引き起こし,ADL指導における目安となることが推察された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>腰痛を有する人は,高齢化とともに増加するといわれており,そのため加齢に伴う脊椎変化に応じた日常生活指導が必要である。今回の結果は,先行研究では明らかにされていない腰椎前彎角を減少させるために必要な足台の高さを特定している。このことは,理学療法の対象となることの多い高齢の腰痛患者の効果的なセルフケアの指標を示した点で臨床的意義が高い。

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