NICUにおける18トリソミー児の看取りまでの理学療法経験
説明
【はじめに、目的】 18トリソミーは6,000人に1人の割合で出生する染色体異常であり,重度精神運動発達遅滞,先天性心疾患など様々な合併症を呈する.1年生存率は5~10%とされている.これまで18トリソミーに対する理学療法の報告は少なく,看取りまでの経験に関する報告はほとんどない.今回,18トリソミー一症例に対し,乳児期から看取りまでのNICUにおける理学療法の経験と,両親との関わりから,理学療法を実施する上で大切にすべき視点やNICUでの看取りを含めた介入の意義について考察したので報告する.【方法】 症例は,在胎週数38週5日,出生体重1680g,Apgar score2/8にて出生した男児で,生後まもなく18トリソミーと診断を受けた.出生時,心室中隔欠損症,動脈管開存症などを合併し人工呼吸器管理となった.身体的特徴として,手指の重なりや握り込み,後頭部突出などの外表奇形や臍帯ヘルニアが見られた.その後,全身状態が安定し長期の人工呼吸器管理が予測されたため主治医より気管切開を勧められたが,両親の同意が得られなかったため気管内挿管のまま1歳5ヵ月で死亡退院となった.理学療法は生後8ヵ月から開始し,約5日/週の頻度で実施した.内容は,児にとって適切な知覚運動経験が出来るようなポジショニングや,発達評価とそれに応じた運動・認知発達支援,家族支援を実施した.家族支援は,両親の面会時に児の発達や理学療法内容の説明,理学療法場面の見学をしてもらった.終末期には,家族の意向を反映しながら,両親による抱っこや安楽なポジショニングを中心に実施していった. 死亡退院から1ヵ月半後,理学療法介入やNICUでの経験について両親へインタビュー調査を実施した.その後,後方視的に理学療法内容と経過,インタビュー結果を関係付けながら,対象児に対してだけでなく両親への関わりを含めた介入を実施する上で大切にすべき視点について考察した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象児の両親に,本発表の目的と意義を口頭にて説明し同意を得た.【結果】 介入初期は,手の握り込みや四肢の筋緊張亢進がみられたが,自己身体の認識を目的とした手への接触を用いたアプローチにより少しずつ緊張が緩み,約1ヵ月後には手の握り込みが改善,また外界を視覚的に探索し始めた.その後,リーチング行動も見られ始め両親は大変喜んでいた.しかし生後9ヵ月時に計画外抜管のアクシデントがあり,一命は取り留めたが容態悪化は避けられず,刺激に対し非常に鋭敏な状態となった.普段のケアに対してもストレス行動が頻繁に出現するようになった.その後,抱っこも含めた理学療法を継続し生理的に安定していったが,1歳5ヵ月頃より肝機能が低下し全身に黄疸が出現.看取りのケアへ移行したため,この時期は安楽なポジショニングに徹した.最終的に看取りのケア移行後1週間程で両親や姉に見守られながら亡くなった.直接の死因は肝不全であった.退院後のインタビューの結果,ポジティブな回答として,「(手が)すごく柔らかくなったなあ.なんか希望が持てた」,「○○くんが楽やったりするんやったら(抱っこを)してもらえて嬉しかった」,「リハビリ見学出来て良かった」,「(リハビリの説明で)将来の可能性を考えられた」などの発言があった.ネガティブな回答としては,「面会出来る時間は限られてるし,もっと(看護師を含め)色んな人に抱っこしてほしかった」,「もっと早くに(児に対して出来ることの)アドバイスがほしかった」などの発言があった.【考察】 インタビューのポジティブな回答から,理学療法介入後,両親が子どもの発達変化を認識出来たことでそれを喜びや希望とすることが出来たことが分かる.またネガティブな回答からは,両親の悩みや要求を介入後早期から把握出来なかったことが,看護師による抱っこや両親への早期からのアドバイスが欠ける原因となったと考えられた.本症例のような看取りを含めたケアにおいて,家族との身体的な関わりは子どもが残り少ない人生を生きる中で非常に重要なものとなり,面会時間以外には特にNICUスタッフとの身体的な関わりも必要となってくる.今回の結果からNICUでの看取りを含めたファミリーケアでは,介入早期より子どもに対する親の思いや医療者への要求などを聴取することや,子どもの発達や人生までも視野に入れながら他者との触れ合いを通した介入が重要であることがわかった.そのためにはNICUに関わる理学療法士として,子どもの発達や両親の思いを把握し,チームに対しても統一した認識をもてるよう働きかけていくことの必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本報告は,NICUでの看取りを含めたケアにおいて理学療法士の役割を示すものである.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Bb1182-Bb1182, 2012
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680547779456
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- NII論文ID
- 130004692765
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可