fMRIを用いてdiadocho課題が脳機能に与える影響を検証する

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  • ─健常者による検討─

抄録

【はじめに、目的】 脳血管疾患の理学療法をすすめていくうえで、非麻痺側肢の動作をあらかじめ反復して行わせると、麻痺側肢の動作が改善したり、発語が明瞭になったりする反応から、この反復動作が運動のパフォーマンスを向上させる一要因であることを我々は確信し、臨床上検討を重ねていた。これらの臨床経験に基づいた立証を行うために一側前腕回内回外の反復動作(diadocho)を用いた課題で脳機能にどのような影響を与えているのかをfMRIを用いて検証をおこなっている。今回はまず、健常者による検討を行ったので報告する。【方法】 対象は神経学的に問題のない健常男性6例、平均年齢26±2.1歳(24歳から29歳)で、すべて右利きであった。機能的磁気共鳴撮像法(fMRI)は1.5テスラMRI装置を用い、fMRI Grandient-echo EPI法で全脳をスキャンした。被検者はMRI装置内に開眼背臥位で、ヘッドコイル内で固定用クッションを用いて頭部を固定し、耳栓で騒音に配慮した。ブロックデザインを用い、右母指と示指による最速タッピングを運動タスクとした。タスク30秒、安静30秒のサイクルを3回繰り返した。diadocho課題は右前腕の回内・回外運動を出来るだけ速く50回連続して行うこととした。fMRIはdiadocho課題を行わない時と行った直後の2回撮像し、両間を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者全てに対して、研究の意義について説明し同意を得た。【結果】 1.3回の合計タッピング回数の平均は、diadocho課題を行わない時平均286.67±48.5回、diadocho課題直後平均318.17±55.46回で有意な向上がみられた(t=4.17 p<0.001)。2.タッピングによる運動タスクでは、全例で同側の小脳と対側の一次感覚運動野、補足運動野の賦活領域が確認され、症例によっては対側の小脳、同側の一次感覚運動野にも賦活領域が認められた。3.diadocho課題前後の脳賦活領域を比較すると、運動タスクと同側の小脳虫部、小脳半球部の活動は増大、対側の大脳半球活動は収束する傾向が伺えた。【考察】 fMRI計測時の運動課題負荷として一般的に用いられているのは何らかの手の運動である。例えば、健常者では、一側の手の単純な開閉運動により活性化される脳領域は対側の一次感覚運動野が最も強く、次いで、補足運動野、同側の小脳前葉とされている。今回のタッピング課題でも対側の一次感覚運動野と補足運動野、同側小脳の賦活が認められた。我々は脳血管疾患やパーキンソン病等の変性疾患に対してリハビリテーションを行う際、diadocho課題を行った後に運動や言語などの課題を行わせるとパフォーマンスが向上することをわれわれの施設では臨床上経験している。今回、diadocho課題前後のfMRI比較では運動タスクと同側の小脳の活動は増大し、対側の大脳半球活動は収束する傾向が伺えた。小脳が担う運動スキルや運動学習に関与する神経機構では、小脳半球は大脳基底核と共同して運動を計画した後、運動野から脊髄を介して筋骨格系に指令を与える。また、運動によってもたらされた体性感覚は小脳虫部にフィードバックされ運動の修正を行うとされている。最近の運動制御仮説「内部モデル概念」で小脳では、運動中の学習によって筋骨格系の入出力関係、つまり運動指令とその結果生じる軌道との関係情報を蓄えるとしている。従って、diadocho課題が小脳に対して運動スキルを向上するための情報を蓄える働きをしているものと考えている。一方、大脳半球では、脳の賦活の原弱や賦活範囲の減少の典型例として、working memoryが要求される認知課題で、訓練により前頭葉や頭頂葉の賦活が減少する場合があり、神経ネットワークの伝達の効率化によると考えられている。今回の研究でも対側の大脳半球活動は収束する傾向が伺え、diadocho課題が運動学習の効率化を促進させている可能性も示唆された。【理学療法学研究としての意義】 diadocho課題のような、単純な反復した動作を繰り返しおこなうことで、運動のパフォーマンスや覚醒レベルが向上することは、臨床上よく観察されることであった。しかし、単に脳が活性化したことが原因であろうと漠然な考察をするしかなかった。近年、fMRIの普及により、脳内活動が視覚的に明確に確認できるようになってきた。fMRIを用いてこのような運動課題が、どこの脳内局在でどのような活動を示しているのかを明らかにすることが本研究の目的である。今回の研究でdiadocho課題が同側小脳の活動を増大させ、対側の大脳半球の活動を収束させる傾向を伺わせた。この健常被検者による研究を基に、今後、脳血管疾患やパーキンソン病などの神経難病についても検討を重ねていくことで理学療法の発展に繋げたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Bb1419-Bb1419, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547807232
  • NII論文ID
    130004692790
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.bb1419.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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