持続的脊柱屈曲姿勢後の体幹前屈運動 腰痛群における腰部ストレスと腰部痛との関連性

  • 鈴木 謙太郎
    名古屋大学医学部附属病院医療技術部リハビリ部門
  • 阿南 雅也
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門
  • 八木 優英
    医療法人サカもみの木会緑井整形外科人工関節センター
  • 新小田 幸一
    広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門

Description

【はじめに、目的】腰痛は中腰姿勢で作業を行う労働者にとって重要な問題の1 つである.腰痛の発生には多数の因子が関与しているとされる.例えば,長時間のしゃがみ姿勢や座位姿勢での作業後に,直ちに脊柱への負荷のかかる作業を始めなければならない条件では,脊柱の安定性は失われ,線維輪が損傷し腰痛を引き起こす危険性が高まる.近年,脊柱屈曲姿勢持続後の体幹前屈運動と腰痛との関連性が着目されてきているものの,腰部ストレスや腰部痛発生との関連について詳細に記述されたものはほとんどない.そこで本研究は,腰痛を有する者を含む若年男性を対象として,脊柱屈曲姿勢の持続がその後の体幹前屈運動に及ぼす影響ついて,運動学的,運動力学的,筋電図学的な観点から検討することにより,腰部への力学的ストレスと腰部痛発生の関連性を考える一助とすることを目的として行った.【方法】被験者を若年男性31 人(年齢23.32 ± 1.28 歳,身長174.10 ± 6.13cm,体重64.77 ± 7.22kg)とし,日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire:JOABPEQ)による疼痛関連障害スコア,または腰椎機能障害スコアが50/100 以下である群を腰痛群(8 人),それ以外を非腰痛群(23 人)に分類した.安静立位を1 分以上保持した後,立位体幹前屈運動(以下,前屈運動)を行う条件を条件N,椅子上で円背指数20 に設定した座位を10 分間持続した後に前屈運動を行う条件を条件Fとした.前屈運動は,60beat/minに設定したメトロノームのテンポに合わせ,一拍分の時間にて最大限の前屈運動を行った.その際,両上肢は前胸部の前で組むよう指示した.なお,各条件で3 回ずつ試行した.身体の合計42 箇所に赤外線反射マーカを貼付した.前屈運動中の運動学的データは赤外線カメラ6 台を用いた三次元動作解析システムVICON MX(Vicon社製)を,運動力学的データは2 基の床反力計(テック技販社製)を各々使用し,サンプリングレート100Hzで取得した.また,右腰部脊柱起立筋(Lumbar Erector Spinae:以下,LES)を被験筋とし,双極誘導により筋電図を導出した.筋電図学的データは表面筋電計EMGマスター(メディエリアサポート企業組合製)を使用し,サンプリングレート1,000Hzで取得した.それらより,前屈運動時の関節角度変位量,関節モーメント積分値,遠心性仕事量,LES%MVCを算出し,さらに前屈運動直後にてVASを聴取した.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 14.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータに正規性が認められた場合は対応のあるt検定を,認められなかった場合にはWilcoxonの符号付順位検定を行い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,所属教育機関の倫理委員会の承認を得た.また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した.【結果】胸椎,腰椎屈曲角度変位量は非腰痛群では条件Fの方が条件Nよりも有意に大きく(p<0.01),腰痛群では両条件間で有意な差は認められなかった.腰部モーメント積分値は両群とも条件Fの方が条件Nよりも有意に大きかった(非腰痛群:p<0.01,腰痛群:p<0.05).腰部の遠心性仕事量は非腰痛群では条件Fの方が条件Nよりも有意に大きく(p<0.01),腰痛群では両条件間で有意な差は認められなかった.LES%MVCは非腰痛群では両条件間で有意な差は認められず,腰痛群では条件Fの方が条件Nよりも有意に大きかった(p<0.05).腰部VASは両群とも条件Fの方が条件Nよりも有意に大きく(非腰痛群:p<0.01,腰痛群:p<0.05),特に腰痛群の条件Fでは著しく高値を示した.【考察】腰部伸展モーメント積分値は両群とも条件Fでは条件Nと比較し増加していたが,腰痛群は,腰部に対するストレスの指標である腰部遠心性仕事量を減少させる戦略を用いていたと考えられる.そこで腰部筋活動と角度変化に着目すると,腰痛群では,条件Fにて, 前屈運動中にLES活動を増加させることで胸椎,腰椎屈曲角度変位量を制御し,腰部遠心性仕事量の増加を防いでいた可能性が示された.しかしながら,腰痛群では条件Fにて腰部VASが著しく増加していたことから,この前屈運動時のLESの過活動が腰部痛発生要因の1 つとなっている可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究は,持続的脊柱屈曲姿勢前後の体幹前屈運動時の角度変位量,腰部仕事量,筋活動の変化が非腰痛者と腰痛者で異なることを示したことに意義がある.これらは,脊柱屈曲姿勢を持続した後の体幹前屈運動時に腰痛を訴える患者に対する腰痛軽減や,さらなる腰痛発生・増悪の予防を目的とした理学療法介入法の一助となることが期待される.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547818624
  • NII Article ID
    130004585265
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100861.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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