美しいハイヒール歩行を獲得するためのpointの検討
Description
【目的】<BR> ファションとしてハイヒールを履く割には、審美性の低い歩行をよくみかける。そこで、美しいハイヒール歩行とは運動学的理論からみてどのようなことが必要となるか、3次元装置を用いて検証したのでここに報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 健常人 (平均21.7±2.5歳)女性30名に対しハイヒール歩行を行わせ、見た目上審美性の高い群(以下A群)10名と低い群(以下B群)20名とに分けた。審美性の高いとは、膝伸展位であることを基準とした。その歩行を三次元動作解析装置(VICON及び床反力計 AMIT社製)にて矢状面から計測し、以下の項目にてAB間を比較した。<BR>1、初期接地(以下IC)後の股関節、膝関節、足関節の角度及びモーメントのピーク値を比較した。<BR>2、IC~LR期の矢状面からみた床反力ベクトルの方向を確認し、比較した。<BR>3、ミッドスタンス(以下M.S)以降の対側の股関節、足関節の角度及びモーメントのピーク値を比較した。<BR>4、歩幅を比較した。<BR>5、IC時期の骨盤傾斜角を比較した。<BR><BR>【説明と同意】<BR>九州中央リハビリテーション学院倫理委員会により承認(承認番号2009005)<BR>【結果】<BR>1、膝関節のみに有意差がみられた。その値は角度がA群11.09±4.75°、B群21.79±5.98°であり、B群の方がA群より屈曲角度が大きかった(P<0.01)。ピークモーメントはA群0.19±0.24Nm、B群0.53±0.38Nmであり、B群がA群より高い値を示した(P<0.01)。<BR>2、矢状面における床反力方向についてはA群が膝関節中心または前方を通り、B群では膝関節後方を通過した。<BR>3、反対側の股関節、足関節の各々のピーク角度及びモーメントピーク値において、A群とB群間に有意差はみられなかった。<BR>4、歩幅においてA群とB群間に有意差はみられなかった。<BR>5、A群は14.61°、B群は6.74°であり、A群はB群に比べ骨盤が前傾していることがわかった(P<0.05)。<BR><BR>【考察】<BR> ハイヒール歩行が美しいと感じる条件は、膝伸展位を保持することと言われている。ハイヒールにて足関節底屈位が保持され、見た目上、下腿が長軸方向に延長され脚が長、身長が高く見える。その視覚効果は、錯覚を利用したものである。関節の運動制限を余儀なくされる歩行を以下に検証する。正常歩行には、立脚期においてヒールロッカー、アンクルロッカー、フォアフットロッカーという3つのロッカー機能が存在する。これらの機能が連動して起こることで、脛骨を前傾し続け、そのモーメントが下肢を伝搬することで身体重心を前方へと運ぶ。脛骨に回転モーメントを与えるきっかけとなるヒールロッカー時の床反力は、足関節軸の後方を通るため、足関節の底屈モーメントを発生させる。その底屈モーメントを脛骨の回転モーメントに変換するために、前脛骨筋の収縮が足関節を軸とした前足部の落下にブレーキをかける。この一連のメカニズムが脛骨を前傾し、重心を前方に移動させることとなる。それに対し、ハイヒール歩行の初期接地においては足関節底屈位にて行う。その結果、前脛骨筋が伸張位となり収縮力が低下し、脛骨の前傾する回転モーメントが生じない。ゆえに重心移動が困難となる。重心移動の点で非効率となるハイヒール歩行においては、ヒールロッカーで発生させることのできない脛骨の回転モーメントを膝関節の屈曲により、脛骨を前傾させて重心の前方移動を可能にしている。しかし、これでは「膝曲がり歩行」となり、審美性の高いハイヒール歩行とは言えない。ハイヒール歩行の審美性を追求すると、IC時での膝関節伸展及び足関節底屈位が重要であることは間違いない。そうなると、IC時の脛骨の前傾は起きず、膝の屈曲も制限するとなれば、身体重心が前方へ移動できなくなるため、以下の点について仮説を立てた。1.反対側の股関節伸展による重心移動。2.反対側の足関節底屈による重心移動。3.歩幅を狭めることで重心移動を容易にしている。4. 腰椎伸展により重心移動。結果は、仮説1~3は有意差がなかったため、前方への重心移動には関与していないことがわかった。仮説4は、A群がIC期に骨盤角度がより前傾しており、腰椎の伸展により重心そのものを前方に移動し、推進力を発生することが示唆された。よって、審美性の高いハイヒール歩行を行うためには、IC~LR期にかけての膝関節伸展・体幹伸展が条件となる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 審美性の追求は、医療や治療的側面において相反する動作(腰痛の発生や膝への負担など)とはなるが、美を必要とする職業も存在し、その様な要望に応えることができるのも理学療法士としての使命ではなかろうか。ニーズは時代と共に多岐にわたるため、それに対応できる理学療法士が今後、必要である。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2010 (0), AbPI2076-AbPI2076, 2011
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680547850112
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- NII Article ID
- 130005016616
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed