投球動作における肩・肘関節の動きについて

書誌事項

タイトル別名
  • 水平面上でのボールリリース位置の違いによる比較

説明

【目的】投球フォームと投球障害の関係は、近年さまざまなバイオメカニクスの手法を用いた研究で証明されてきている。当院の先行研究によると、投球障害肩では加速期にかけて痛みを訴えるケースが多く、ボールリリース(BR)で肩関節への負荷が最も少ない水平内転角度は5.5°と報告している。本研究はBRでの水平内転角度に着目し、負荷の少ない肢位で投球できていない例の問題点を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】対象は当院のモーションキャプチャシステムにより三次元投球動作分析を行った様々なレベルの86名である。得られたデータからBRでの水平内転角度が0.5°より水平外転位にあるものをA群36名(年齢15.7±3.9歳)、0.5°から10.5°をB群30名(年齢19.0±6.2歳)、10.5°より水平内転位にあるものをC群20名(年齢19.8±6.7歳)とした。算出した角度は肘関節の屈曲角度、肩関節の水平内転角度、外転角度、外旋角度について最大水平外転(MHA)、フットプラント(FP)、最大外旋(MER)、BR、MERからBRまでの移動量(移動量)の5項目で求めた。また、肘屈曲角度に関しては最大屈曲角度(MFE)も求めた。統計学的処理は一元配置分散分析もしくはBonferroniの方法を用いた。<BR>【説明と同意】得られたデータの取り扱いに関し十分な説明を行い、選手または保護者に文書にて同意を得た。<BR>【結果】以下、(A群、B群、C群)の順に値を示す。肘屈曲角度はMHA(98.4±19.2°、97.0±26.2°、84.3±23.6°)、FP(116.0±18.9°、117.6±17.7°、107.8±22.0°)、MFE(126.8±11.4°、128.1±14.5°、126.4±13.5°)、MER(95.2±9.9°、100.0±10.4°、105.3±14.7°)、BR(37.6±7.8°、44.4±8.7°、55.3±13.9°)、移動量(57.6±9.6°、55.5±7.9°、50.0±10.4°)であり、MERでA群とC群間に、BRで3群間に、移動量でA群とC群間に有意差を認めた。水平内転角度はMHA(-46.5±11.7°、-39.1±11.3°、-36.4±8.3°)、FP(-36.5±12.7°、-29.0±11.2°、-23.3±11.0°)、MER(-4.9±7.3°、6.1±6.1°、18.0±12.3°)、BR(-8.3±6.0°、4.0±3.5°、19.1±9.4°)、移動量(3.3±4.7°、2.0±5.2°、-1.1±6.1°)であり、MHAでA群とB、C群間に、FPでA群とB、C群間に、MERで3群間に、BRで3群間に、移動量でA群とC群間に有意差を認めた。外転角度はMHA(71.1±13.0°、74.5±17.4°、78.9±18.3°)、FP(76.6±12.2°、80.6±11.2°、85.6±12.4°)、MER(87.3±10.4°、89.6±8.1°、89.7±7.9°)、BR(82.8±8.5°、84.3±8.4°、85.5±7.7°)、移動量(4.4±4.7°、5.2±4.1°、4.1±3.6°)であり、FPでA群とC群間に有意差を認めた。外旋角度はMHA(30.7±28.2°、40.0±36.3°、34.6±32.0°)、FP(74.8±29.3°、78.5±21.2°、73.8±28.9°)、MER(164.9±8.6°、159.8±10.3°、156.2±14.1°)、BR(106.8±17.0°、112.4±16.0°、118.8±13.1°)、移動量(58.0±15.7°、47.4±15.1°、37.4±10.2°)であり、MERでA群とC群間に、BRでA群とC群間に、移動量はA群とB、C群に有意差を認めた。<BR>【考察】加速期における水平内転角度、外転角度の移動量としてはB群と比較してA、C群とも大差なく、加速期での肩関節の動きはいずれもわずかであることが分かった。違いとしてはB群は投球動作が並進運動から回転運動に切り替わっても、肩関節の機能として安定したポジションをキープしたまま運動を遠位の関節へ伝える役目をしており、肩の過剰な内旋運動を必要とせず加速は主に肘関節が中心となっていると考えられる。一方、A群は水平面上でのMHAが水平外転方向に有意に大きく、MERまでに水平内転位に移動できていない。その肢位で肘関節を伸展すると三塁側への投球になってしまうため、肩関節を過剰に内旋させ水平内転不足を補っていると思われる。また、MERまでに肘関節伸展が大きい傾向があり、これは頭部からボールが離れることを意味し、肩・肘関節に加わる負荷が大きくなってしまう。逆にC群はテイクバックの取り方はB群と変わりないが、MERまでに水平内転位に移動しすぎてしまっている。そのためボールを長く持つと一塁側への投球になってしまうため、より肘関節屈曲位で、肩関節内旋は少なくBRしていると思われる。なぜテイクバックではB群と差のないC群が過剰に水平内転位でMERを迎えるのかは、下肢・体幹の使い方に違いがある可能性があり、今後は上肢以外の動きも検討する必要がある。本研究から、MERからBRにかけて肩関節の動きはほとんどない事が明らかにされ、MERまでに負荷の少ない肢位に準備しておく必要があると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた結果は、日頃から臨床場面で投球障害につながるであろうと考えられている問題点を数値化したものであり、投球フォーム指導の際の根拠となるものである。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CcOF2065-CcOF2065, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547860608
  • NII論文ID
    130005017358
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ccof2065.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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