片脚立位での一側下肢の運動が対側の支持脚における足底圧中心位置と足部内反筋群,腓骨筋群の筋活動に与える影響

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抄録

【目的】<BR> 臨床において、歩行の足底接地時から踵離地時に荷重を後足部から前足部へ移動することが困難な症例を数多く経験する。後足部から前足部へ荷重を移動するには、足底圧中心位置(以下 COP:Center of Pressure)を後方から前方へ移動する必要があり、その際には足部周囲筋群の筋活動が重要になると考えられる。我々は第50回近畿理学療法学術大会にて、片脚立位における一側下肢(以下、非支持脚)の運動が、対側の支持脚におけるCOPと足部周囲筋群の筋活動に与える影響について、特にCOPの前後方向への変位に対する前脛骨筋と腓腹筋の筋活動パターンを検討した。しかし先行研究の運動課題において、COPは前後方向だけでなく内外側方向への変位も生じることが予測され、それに伴う足部周囲筋群の筋活動パターンを検討する必要があった。そこで、片脚立位における非支持脚の運動が、支持脚のCOP変位、特に今回は内外側方向のCOP変位に伴う足部周囲筋群の筋活動パターンについて検討することとした。<BR>【方法】<BR> 対象は、整形外科学的、神経外科学的に問題のない健常者10名10肢、平均年齢25±5歳とした。まず被験者の支持脚を重心計のプレート上に置き、片脚立位をとらせ、非支持脚にて運動課題を行った時の支持脚の筋電図とCOPを測定した。筋電図では、支持脚の足部内反筋群(後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋)、腓骨筋群(長腓骨筋、短腓骨筋)の筋電図波形を記録した。電極位置について、足部内反筋群は脛骨内果より4横指近位、腓骨筋群は腓骨頭より3横指遠位にそれぞれ電極間距離2cmで貼付した。運動課題は、立位の状態から非支持脚の膝関節を伸展した状態で股関節を軽度屈曲させ、非支持脚足底が接地しないよう前方で空間保持した状態を開始肢位とした。この肢位から非支持脚の股関節を屈曲する運動(前方運動)と、非支持脚の股関節を伸展する運動(後方運動)を行わせた。なお、非支持脚の運動と筋電図波形、COP記録を同期するためフットスイッチを非支持脚の母趾先端と踵骨後方に配置し、被験者の前後に設置した台に非支持脚を接触させ、運動の切り換え時期を確認した。運動課題の規定は、非支持脚の運動に伴う支持脚足関節の運動は許可し、支持脚股関節や体幹は運動が起こらないよう開始肢位の状態を保持させた。また運動課題中、支持脚の足底は常に全面をプレートに接地させた。 非支持脚の前後への移動距離は、規定内で各被験者が最大に移動できる距離とした。運動課題は開始肢位より前方運動から行い、前方・後方の台にそれぞれ5回接触することを1施行とし、各被験者につき3施行測定した。分析方法は、前方運動におけるCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う足部周囲筋群の筋活動パターンを分析した。<BR>【説明と同意】<BR> 被験者には本研究の目的・方法を充分に説明し同意を得た。<BR>【結果】 <BR> COPは前方運動において前方及び内側方へ、後方運動においては後方及び外側方へ変位した。腓骨筋群の筋活動は、COPの後方から前方への切り換え時に開始し、COPが前内側方に変位するに伴い漸増傾向を認めた。足部内反筋群の筋活動は、COPが前内側方へ変位する途中で、腓骨筋群に遅れて筋活動を開始し、後方運動への切り換え時まで筋活動は漸増傾向を認めた。<BR>【考察】<BR> 前方運動においてCOPの前内側方への移動開始とほぼ同時期に腓骨筋群の筋活動が認められ、COPが前内側方へ変位するに伴い漸増傾向を認めた。Seibelらは、長腓骨筋は足部を外側に引き上げ荷重を外側から内側に移動させると報告している。このことから、後方運動から前方運動への切り換え時に、腓骨筋群は足部回内作用にてCOPを内側方に誘導したと考えられる。また、本運動課題におけるCOPの前方変位は、足関節背屈でなされていると考えられ、腓骨筋群は足関節底屈作用にて足関節背屈に伴う下腿前傾の制動にも関与したと考えられる。足部内反筋群は、COPが前内側方に変位する途中で筋活動を開始した。前方運動では、閉鎖性運動連鎖下での足関節背屈が生じることから、後足部は回内し相対的に下腿は外側傾斜すると考えられる。これに対し、足部内反筋群は後足部回外作用にて下腿の外側傾斜を制動したと考えられ、また足関節底屈作用にて下腿前傾制動にも関与したと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 足部内反筋群や腓骨筋群は、歩行周期において立脚相に活動することが報告されている。本運動課題でも前方運動により、これらの筋群の筋活動が認められたことから、足部周囲筋群の機能障害により後足部から前足部への荷重移行が困難な症例に対する運動療法として本運動課題は有用であると考えられる。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2108-AbPI2108, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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