ベッド上背臥位にて下肢を下垂した時の股関節伸展可動域に膝の角度が与える影響

  • 山下 俊和
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科
  • 江口 京子
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科
  • 大西 健太
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科
  • 大藪 景子
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科
  • 栗屋 貴
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科
  • 千田 和幸
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科
  • 吉川 晃史
    社会福祉法人 宇治病院 リハビリテーション科

この論文をさがす

説明

【目的】<BR> 股関節伸展角度は正常歩行の立脚後期には10度程度必要であり、可動域制限がある場合、骨盤前傾や腰椎前彎の代償運動が生じ腰痛などを引き起こすことがある。そのため、腰痛や股関節疾患の術後など臨床上、股関節伸展可動域を改善させたい場面は多い。<BR> 日本リハビリテーション医学会と日本整形外科学会が制定する関節可動域検査法では、股関節伸展可動域を測定する際は腹臥位で膝関節は伸展位にて行うことになっているが、臨床の場面で治療ベッドにて可動域訓練を行う場合、加齢などにより円背があり腹臥位を取りづらいケースは多く、また股関節伸展自体も骨盤前傾による代償動作が生じやすい。その場合、トーマステストの方法を応用し、背臥位のまま反対側下肢を屈曲させ骨盤の前傾を抑えつつ、治療下肢をベッドから出し下垂させた姿勢のまま大腿部を押さえることで股関節伸展可動域訓練を行っている場面を見かける。しかしその際、下垂させた下肢の下腿は純粋な鉛直方向には下垂しておらず、少し伸展していることが多い。このことは、股関節屈曲と膝関節伸展の作用を持つ二関節筋である大腿直筋や大腿筋膜張筋がすでに伸張されてしまっていることが原因ではないかと思われる。<BR> そこで今回は、ベッド上背臥位にて下肢を下垂した姿勢で行う股関節伸展可動域の効果的な訓練方法を考えるため、下垂した下肢の膝関節を他動的に伸展した場合としない場合で、股関節伸展可動域に違いが生じるのかを調べた。<BR><BR>【方法】<BR> 被験者は、下肢に既往のない健常成人10名(男性4名、女性6名、平均年齢30.8±3.4才)とし、右側の下肢で行った。<BR> 姿勢はトーマステストの姿位を応用し、ベッド上背臥位にて反対側下肢の股関節と膝関節を屈曲させ大腿を体幹前面に引き寄せることで骨盤の前傾を抑え、計測下肢をベッドから出し、下垂した姿勢で検者が計測下肢の大腿の遠位部(膝蓋骨直上部)を押し下げることによる他動的な股関節伸展可動域を「下腿をそのまま下垂させた場合」と「下腿を他動的に支え膝関節を完全伸展させた場合」の2つの姿位で測定した。<BR> その際、反対側下肢の股関節屈曲角度は一定に保ち、かつ上前腸骨棘にランドマークを貼り、測定中に骨盤が前後傾しないことを側方から確認してもらいながら行い、股関節伸展角度は、基本軸(体幹と平行な線)と移動軸(大腿骨)のなす角を東大式角度計(全長30cm)を用いて1度単位で計測した。計測によるストレッチ効果が出ないように計測は各々5秒以内に行った。各々の姿位で2回ずつ計測を行い平均を用い、統計処理は、対応のあるt検定にて比較・検討し、有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に則り、全ての被験者に対し、研究の目的と内容を説明し同意を得た上で計測を行った。<BR><BR>【結果】<BR> 股関節の伸展角度は、そのまま下腿を下垂させた姿位では、20.3±4.5度となり、膝関節を他動的に伸展した姿位では22.9±4.6度となり、優位な差があった(p<0.05)。つまり、下腿を下垂させた姿位から膝関節を他動的に伸展させると股関節伸展可動域は大きくなった。<BR><BR>【考察】<BR> 背臥位のまま股関節伸展可動域訓練を行おうとベッド上から下肢全体を下垂すると、重力により股関節は伸展し膝関節は屈曲するが、下腿が純粋な鉛直方向に下垂せずに少し伸展しているということは、股関節屈曲と膝関節伸展の両方の作用を持つ二関節筋である大腿直筋もしくは大腿筋膜張筋が伸張されることで静止張力が発生していることを示していると考えられる。この二関節筋が伸張され静止張力が発生している状態のまま股関節伸展のストレッチを行っても、可動域訓練する際の制限因子の一つになると考えられ、純粋に股関節のみの伸展可動域訓練を行いたい場合は、二関節筋の影響を除く必要がある。<BR> 今回の計測結果より、大腿直筋と大腿筋膜張筋の作用の一つである膝伸展を他動的に行うことで伸張されていた二関節筋がゆるみ、そのため股関節伸展可動域が拡大したのではないかと考えられる。つまり、股関節の伸展可動域のみを改善したい場合は、症例によって大腿直筋や大腿筋膜張筋などの二関節筋の影響を考慮する必要があると考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 臨床上よく行うことのある背臥位での股関節伸展可動域訓練において、トーマステストを応用した姿位で、下肢を治療ベッドから下垂して訓練を行う際には、膝関節伸展の作用を持つ二関節筋である大腿直筋や大腿筋膜張筋の影響を考慮に入れ、症例によって膝を他動的に伸展位にして訓練を行うことの必要性を示すことができた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2113-AbPI2113, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ