大腿骨頚部骨折患者の杖歩行自立と独歩自立に関わる要因と判断基準に関する検討
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説明
【目的】大腿骨頸部骨折は受傷後の歩行能力が著明に低下することが知られている.一方で歩行能力は退院後の生活機能やQOL,生命予後に関わる重要な要因であり,骨折後のリハビリテーションでは歩行能力の向上を目指すことが多い.そのため大腿骨頚部骨折患者の歩行自立に関わる要因とその目標値を明らかにすることは有益な情報である.しかしこれまでの先行研究では年齢,術式,合併症などリハビリテーションでは改善しにくい要因を検討したものが多く,筋力やバランス機能などの運動機能の影響を調査した報告は少ない.また歩行自立の基準に関しても,杖歩行自立と独歩自立では影響する運動機能が異なると推察されるが,歩行自立の基準を区別して検討した報告はない.そこで本研究では杖歩行自立と独歩自立に関わる運動機能を明らかにするとともに,歩行自立の予測や目標設定に有効と考えられるカットオフ値を示すことを目的とした.<BR>【方法】対象は2006年から2010年に当院に入院した大腿骨頚部骨折患者198人の中から,退院時のカルテ情報から運動機能評価が調査可能であった109人を対象とした.平均年齢は79.2±11.5歳(42-98歳),男性25人,女性84人であった.運動機能評価は健側と患側の膝伸展筋力(kgf/kg),10m最大歩行時間,Timed Up and Go Test(TUGT)を調査した.また歩行状態は独歩自立,杖歩行自立,歩行監視~介助歩行の3段階で評価した.解析は杖歩行自立の可否(杖歩行自立群と杖歩行非自立群)と独歩自立の可否(独歩自立群と独歩非自立群)を従属変数とし,t検定により各運動機能評価の単変量解析を行った後,有意差のみられた項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.なお多重共線性の影響を少なくするため,独立変数間の相関係数を求め強い相関を示した場合はどちらか一方の変数を除外することとした.また多重ロジスティック回帰分析により選択された運動機能に関して,ROC曲線を用いて杖歩行自立と独歩自立を予測するためのカットオフ値と曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)を求めた.解析にはPASW18.0J for Windowsを用いた.<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し,研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文書を用いて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.<BR>【結果】全対象者の退院時の歩行状態は独歩自立が22人,杖歩行自立が50人,歩行監視~介助歩行が37人であった.杖歩行自立群と杖歩行非自立群との比較では年齢,健側と患側の膝伸展筋力,10m最大歩行時間に有意差がみられた.また独歩自立群と独歩非自立群の比較では年齢,健側と患側の膝伸展筋力,TUGTに有意差がみられた.多重ロジスティック回帰分析の結果は,杖歩行自立の可否に関わる要因は健側の膝伸展筋力と10m最大歩行時間であり,独歩自立の可否に関わる要因は患側の膝伸展筋力とTUGTが選択された.杖歩行自立を判断するROC曲線の回帰モデルの適合度は健側の膝伸展筋力のAUCが0.87(p<0.01),10m最大歩行時間のAUCが0.88(p<0.01)であった.さらにカットオフ値は健側の膝伸展筋力0.31kgf/kg(感度0.80,特異度0.82)と10m最大歩行時間18.3秒(感度0.92,特異度0.79)と判断した.また独歩自立を判断するROC曲線の回帰モデルの適合度は患側の膝伸展筋力のAUCが0.78(p<0.01),TUGTのAUCが0.92(p<0.01)であった.さらに独歩自立の可否を予測するカットオフ値は患側の膝伸展筋力が0.25kgf/kg(感度0.86,特異度0.65 )とTUGTが10.5秒(感度0.91,特異度0.76)と判断した.<BR>【考察】本研究の結果から杖歩行自立には軸足となる健側の膝伸展筋力の強化と歩行速度の向上が必要であることが示され,その目標値は健側の膝伸展筋力で体重の約30%,10m歩行時間で約18秒であった.一方,杖による支持がない独歩を獲得するためには患側の膝伸展筋力の強化と動的バランス能力を含む総合的な移動能力の向上が必要であることが示唆され,その目標値は患側の膝伸展筋力で体重の約25%,TUGTで約10秒となった.<BR>【理学療法学研究における意義】本研究では大腿骨頚部骨折の独歩自立と杖歩行自立に関わる運動機能とそのカットオフ値示したことから,入院期のリハビリテーションにおいて大腿骨頚部骨折患者の歩行自立の予測や運動機能の目標設定を行う際に有効な情報になると考える.<BR>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2306-CbPI2306, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680547910400
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- NII論文ID
- 130005017283
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可