変形性膝関節症患者におけるDuchenne歩行の身体的因子
Description
【目的】<BR> 変形性膝関節症(以下,膝OA)患者では,下肢身体機能であるアライメント異常,股・膝関節周囲筋の筋力低下や歩行時の疼痛により,歩行距離の短縮や歩行速度の低下が起こる.また,膝OA患者の代表的な跛行には,Lateral thrust,Trendelenburg歩行,Duchenne歩行(以下,D歩行)があると報告されている.膝OA患者におけるD歩行の先行研究では,下肢アライメントや股関節周囲筋との関連が指摘されている.しかし,D歩行を呈する膝OA患者を対象とした研究は数少なく, D歩行群(以下,D群)と認めない群(以下,コントロール群)との下肢身体機能の関係は明らかになっていない.本研究の目的は,膝OA患者におけるD群とコントロール群の下肢アライメント,下肢筋力,疼痛を比較することによって,D歩行の特性を検討することである.<BR>【方法】<BR> 2009年8月~2010年6月の間に当院整形外科で膝OAと診断され,保存的治療を実施している外来患者30名(男性:8名,女性:22名,年齢:73.5±7.5歳,内,D群:15名,コントロール群:15名)を対象とした.取り込み基準は,独歩での屋内歩行が10m以上可能な者とした.対象側は視診によりD歩行が強く出る側とし,左右差が同程度の場合は大腿脛骨角(femoro-tibial angle:以下,FTA)の角度が正常範囲より逸脱する側,さらに同程度の場合は疼痛の強い側とした.D歩行の判定は,著者を含む2名以上の理学療法士により決定した.D歩行の関連因子として,FTA,股外転筋力,股内転筋力,股伸展筋力,股屈曲筋力,膝伸展筋力,膝屈曲筋力,疼痛の程度(visual analog scale:VAS)の8項目の計測を行った.筋力はハンドヘルドダイナモメーター(オージー技研社製,アイソフォースGT-300)を使用し,等尺性最大筋力を計測した.統計学的処理は対応のないt検定を行った.統計解析にはSPSS(student version 16.0)を用い,有意水準は5%とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には書面および口頭にて本研究の目的と内容に関する説明を行い,書面による同意を得た.またデータの収集,分析,公表では個人情報が特定出来ないように匿名化を行った.なお,本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施した.<BR>【結果】<BR> 両群間において,年齢とBody mass index(BMI)に有意差がないことを確認した.本研究対象者のFTAの平均はD群183±4.1°(範囲:178~194°),コントロール群180±4.0°(範囲:174~187°)であった.本研究の結果より,D群のFTAはコントロール群より有意に大きかった(p=0.044).下肢筋力と疼痛については,有意差は認められなかった.<BR>【考察】<BR> 本研究では,膝OA患者を対象にD群とコントロール群の下肢アライメント,下肢筋力,疼痛を比較することによって,D歩行の特性を検討した.本研究の結果より,コントロール群と比較してD群のFTAは大きく,有意差が認められた.すなわち,膝OA患者のD歩行には,FTAが関連する可能性が示唆された.石井ら(1998)によると,FTAが増大している膝OA患者の歩行では,内反変形を呈しているため,立脚期に前額面上で床反力ベクトルが内側へ傾くと報告している.本研究対象者においても,FTAの増大による内反変形が,歩行時の床反力ベクトルを内側へ傾ける要因として考えられる.床反力ベクトルの内側への傾きが増大すると,身体重心は遊脚側へ移動するが,重心を身体中心に保つためにD歩行が起こると推察される.一方,諸家の報告より,膝OA患者における歩行能力には,下肢筋力が影響することは周知の事実である.現在,D歩行を呈する膝OA患者に対しても,D歩行の改善を目的とした理学療法として,主に股関節周囲筋の筋力増強訓練が行われている.しかし,本研究結果では静的な評価である等尺性下肢筋力は,D歩行との間に有意差が認められなかった.よって,D歩行の改善を図るには,静的な下肢筋力評価だけでなく,特に動作時の筋機能と比較して検討する必要があると考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究結果より,膝OA患者のD歩行にはFTAとの関係が示され,等尺性下肢筋力との関係は認められなかった.今後,理学療法プログラムを立案するにあたり,歩行時の床反力ベクトルの変位を考慮した下肢機能を分析し,検討する必要があると考えられる.さらに,運動連鎖を考慮した理学療法プログラムを導入することにより,高齢者の活動性が高まり, QOLの向上が望めると考える.
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2010 (0), CcOF2069-CcOF2069, 2011
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Keywords
Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680547937792
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- NII Article ID
- 130005017362
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed