長期人工呼吸患者の腹臥位療法による換気とバイタルサインの変化
Description
【はじめに、目的】 当院では全82床中、約75床にて長期人工呼吸を行い、無気肺改善、肺炎予防、排痰目的に腹臥位療法(prone position therapy:PPT)を実施する頻度が高い。PPTが酸素化や無気肺の改善に有効とする報告は多いが、PPT中の呼吸パラメータ(respiratory parameter:RP)、バイタルサイン(vital signs:VS)の変化は明らかにされておらず、腹臥位療法中の患者のRPとVSを経時的に調査したものは少ない。本研究の目的は、腹臥位前、中、後のRPとVSを経時的に測定し、その変化を調査する事とした。【方法】 対象は、PPT頻度が週3回以上、換気モードが従圧式:SIMV(PC)+PSの長期人工呼吸患者5名(男性4名、女性1名、平均年齢69.80歳)とした。人工呼吸に至った主病名は低酸素脳症3名、神経筋疾患2名であり、平均在院日数は1270.40日であった。全員が気管切開患者であり、使用された人工呼吸器はServo s(フクダ電子)であった。調査期間と頻度は患者一人につき1週間としその内の3日間測定した。PPTの体位変換は3-4名(医師、看護師、理学療法士)で実施し、その後のVS確認、気管内吸引は看護師が行った。体位は前傾側臥位とし、長枕を患者の前胸部・腹部に挿入した。理学療法士は腹臥位療法中に排痰介助を実施した。PPTの実施時間は、平均1.94時間/回であった。調査項目は、呼気一回換気量(TVe)、呼吸数(RR)、呼気分時換気量(MVe)、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)、終末呼気炭酸濃度(ETCO2)、動的コンプライアンス(Cdyn)、気道抵抗(Raw) 、心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)とした。腹臥位前のデータは腹臥位開始前30分間、腹臥位後のデータは腹臥位後30分間収集した。SBPとDBPはベッドサイドモニター(DS-7100、フクダ電子)から収集し、その他の項目はコズモプラス8100(フクダ電子)を、データ編集ソフトウェアにAnalysis Plus(Novametrix Medical Systems社)を使用して収集した。統計は腹臥位前、中、後のデータを一元配置分散分析にて比較し、p<0.05で有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、主研究者が所属する施設の倫理委員会の承認を受けた。PPTは主治医の指示で行われる非侵襲的治療である。収集したデータは、使用機器にて自動的に収集可能なものであり、体位変換その他の看護業務は通常通り実施された。【結果】 各項目の平均値は、腹臥位前/腹臥位中/腹臥位後ではTVe(ml):258.75/239.86/258.62、RR(bpm):21.26/21.48/20.96、MVe: (L/min) 5.17/5.02/4.96、SpO2(%):98.09/97.07/97.96、ETCO2(mmHg): 43.66/43.48/39.83、Cdyn(ml/cmH2O): 29.54/29.15/29.86、Raw(cmH2O/l/sec):14.19/15.64/13.60、HR(bpm):75.91/76.47/73.01、SBP(mmHg):99.17/96.62/100.53、DBP(mmHg):56.66/52.84/58.63であった。各項目を腹臥位前、中、後で比較した結果、全ての項目で有意差を認めなかった。【考察】 急性呼吸不全患者はPPT中に肺胞換気やコンプライアンスが改善するため酸素化や無気肺が改善するとされるが、今回の結果では各測定項目で有意な変化を認めなった。対象とした患者は、長期的な人工呼吸器装着下で安定した状態であるため、腹臥位中もPRやVSは有意に変化しなかったと考えられる。しかし、5名の患者の中で腹臥位中にTVeが低下したものが3名、増加したものが2名おり、変化に個人差が見られた。TVeが腹臥位中に低下した3名は、腹臥位前のCdynが平均39.84 ml/cmH2Oと正常範囲内で維持されていたが、TVeが腹臥位中に増加した2名は腹臥位前のCdynが平均14.08 ml/cmH2Oと低かった。コンプライアンスが維持されている患者は、姿勢変化や腹臥位中の前胸部圧迫といったポジショニングの影響を受けやすく換気量が低下したと考える。反対に、コンプライアンスが非常に低下した症例は、腹臥位前から胸郭の可動性が低下しているためポジショニングの影響が少ないと思われる。いずれの患者に対しても徒手的な胸郭圧迫を加えて腹臥位中のTVeを増加させる事は排痰を促す上でも重要であり、理学療法の介入は必要であると考える。今回測定した項目において、腹臥位前、中、後で有意な変化が見られなかったことから、当院で実施しているPPTは安全に行えており、今後も実施していく事が可能であると考える。そのため、今後は症例を増やし、腹臥位前後の経時的変化をより詳細に調査し、将来的にはPRやVSがPPTの効果に影響するものなのかを検討する必事があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の実施により、呼吸理学療法の一つであるPPTが長期人工呼吸患者に対して安全に実施可能であるという結果が得られた。また、腹臥位中の各換気パラメータは変化しないが、個人差があるため呼吸状態を評価しながらPPTを実施すべきである。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2011 (0), Db1194-Db1194, 2012
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680547958272
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- NII Article ID
- 130004693322
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed