ステップ動作における予測の有無が腹直筋・内腹斜筋の筋活動開始時間に与える影響

説明

【目的】腹筋群は,多くの下肢筋の起始部である骨盤の固定作用を担う点から,下肢運動時に重要であると言われている.スポーツの動作場面の中では,次に行う動作が予測できない非予測状況が多く存在し,そのような状況における外傷発生が多いと考えられる.また,非予測状況での動作中の筋活動や動的アライメントは,予測可能な状況に観察される特徴とは異なることが報告されている.しかし,非予測状況における腹筋群の筋活動は検討されていない.そこで本研究では,ステップの方向に対する予測の可否が,内腹斜筋・腹直筋の筋活動に与える影響を明らかにする事を目的とした.<BR>【方法】対象者は健常男性16名とした.課題は,安静立位からの右足ステップとし,目標位置は最大歩幅の30%の位置と,その位置から左右それぞれに30cm移動させた位置の計3か所とした.カウントダウンを行い,0秒になった瞬間に目標位置のランプを点灯させ,対象者にランプが点灯した方向にできるだけ早くステップを行わせた.予測課題は,試技実施前に予め点灯するランプを教示するが,非予測課題では教示を行わない事とした.対象者には,ランプ点灯前に動作を開始しないように指示した. 動作はハイスピードカメラにより記録した. 対象者は両課題で,各方向へのステップを無作為に5回ずつ実施した.対象者はWii-Balance Board(任天堂社製)上で安静立位を保持し,モニター表示される重心位置を一定範囲で中心に留まるように調節し,その状態から課題を実施した.目標位置は,Wii- Balance Board上面と同じ高さの台上に設定した.筋電図の測定は表面筋電図を使用し,測定筋は左内腹斜筋(LIO)・右内腹斜筋(RIO)・左腹直筋(LRA)・右腹直筋(RRA)・右縫工筋(Sa)とした.電極貼付部位は,LIO・RIO・LRA・RRAはNgらの方法に準じて貼付し,Saは上前腸骨棘から大腿骨内側上顆を結んだ線分上で,上前腸骨棘より4横指遠位部の筋腹部位を触診・超音波診断装置で確認後,電極を貼付した.各筋のOnsetTimeは,安静立位時の平均筋活動量を基準に,その標準偏差の3倍を加算した値を超えた時間とし,LIO・LRA・RIO・RRAはSaのOnsetTimeとの差(OnsetGap)を算出した.ハイスピードカメラで同定したランプ点灯から,ステップ時のヒールコンタクト(HC)とSaのOnsetTimeまでの時間および各筋のOnsetGapを両課題間で対応のあるt検定を用いて比較し,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】本実験の対象者には,本実験の目的・趣旨を十分に説明し,書面で参加の同意を得られた者に対して実験を実施した.<BR>【結果】ランプ点灯からHCまでの時間は,予測課題(626±105ms),非予測課題(726±94ms)であり,非予測課題で有意にHCの時間の遅延が確認された.ランプ点灯からSaのOnsetTimeまでの時間は,予測課題(-232±115ms),非予測課題(-150±141ms)であり,方向指示よりも早い時期に筋活動が開始しており,非予測課題で有意に筋活動の遅延が確認された.RIOのOnsetGapは予測課題(195±164ms),非予測課題(293±172ms)であり,非予測課題で有意な筋活動の遅延が確認された.LIO・LRA・RRAの各筋では,課題間で有意な差が検出されなかった.<BR>【考察】本研究では,非予測課題において,Saの筋活動開始時間の遅延,ランプ点灯からHCまでの時間延長およびSaとRIOの筋活動開始時間の間隔の延長が確認された.非予測課題でランプ点灯からHCまでの時間が延長した事は,選択反応課題における反応の遅れによるものと考えられる.このことはステップ方向が予測できなかったために,ランプ点灯前に予めSaの筋活動を発生させるタイミングが遅れたことによる結果だと考えられる.また,非予測課題でRIOのOnsetGapに有意な増加が確認されたことは,SaとRIOの筋活動開始時間の間隔が延長したことを示し,RIOがSaよりも非予測課題の影響を強く受け,その結果としてRIOのOnsetの時期が遅れた可能性を示唆している.右足ステップ時,運動脚骨盤の引き上げ・右下肢への荷重に対する骨盤固定の役割を果たすと考えられるRIOの筋活動が非予測状況で遅れる現象は,障害や外傷の発生に関わっている可能性が推察される.<BR>【理学療法学研究としての意義】非予測状況時の腹筋群の活動様相の解明は,外傷発生に関連のある下肢筋活動や動的アライメントの要因を探るうえでの基礎資料になり得るとともに,外傷発生後の効果的な理学療法プログラムの構築や再発予防に向けた方策の検討に寄与すると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2019-AbPI2019, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548003328
  • NII論文ID
    130005016559
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.abpi2019.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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