簡易脳波、深部体温と遠位・近位皮膚温から見た温泉浴の睡眠への効果

DOI
  • 上村 佐知子
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 若狭 正彦
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 齊藤 明
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 佐々木 誠
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 佐竹 將宏
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 進藤 進一
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 工藤 俊輔
    秋田大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 理学療法学講座
  • 神林 崇
    秋田大学大学院 医学系研究科 医学専攻 病態制御医学系 精神科学講座

抄録

【はじめに、目的】 入浴は身体過熱による体温上昇が大きく、入眠促進・熟眠効果をもたらすことが知られている。これまでの研究者によると、末梢体温の上昇がその後の深部体温の下降を招き、人は入眠しやすくなるのだという。Kräuchi(1999)らは、深部体温の変化よりむしろ、 末梢皮膚温(あるいは遠位体温:distal temperature)と 深部体温(あるいは近位体温:proximal temperature)の差すなわちDPG(Distal-proximal temperature gradient)が少なくなったときに入眠が促進されると報告した。しかし、実際に睡眠脳波を用いてこれを実証した研究は見られていない。我々は、健康成人を対象とした就寝前の入浴や温泉浴が、その夜間の睡眠に与える影響について、体温計や簡易脳波計を用いて比較検討した。【方法】 健常男性8名(平均年齢20.1歳)を対象に、温泉(ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉)に入った場合、普通の風呂(家庭風呂に水道水)に入った場合、入浴しない場合の3条件をランダムに振り分けた。被験者は、22時に上記の3条件のいずれかを実施した。湯温はすべて40度に設定した。被験者は胸部の真ん中の高さまで沈み、15分間、湯に浸かった。そして、入浴後から翌朝までの深部体温(直腸温)、遠位(distal)皮膚温(足の甲)と近位(proximal)皮膚温(鎖骨下部)、簡易脳波、活動量を測定した。また、24時の就寝前と7時の起床後にCFF(Critical Frequency of Fusion test)と眠気 (Stanford Sleepiness Scale、 VAS) を測定した。被験者は、脳波計と体温計と活動計を装着した上で、24時から7時まで眠るように指示された。実験は1週間おきに一晩ずつ、計3夜行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学大学院医学系研究科 研究倫理審査を通過している。研究への参加は、対象者の方の自由意思によるもので、参加の中止は、被験者自身の意志でいつでもできることを同意書をもって説明している。さらに、プライバシーの保護には十分留意し、対象者の方のデータは、適切に管理し、担当者以外の者に対象者の方が特定されることがないようにした。【結果】 睡眠第一周期の分あたりのデルタ量が温泉、普通風呂、入浴なしの順に大きくなっていた(p<0.04)。同様に、入眠潜時(SL)も、温泉、普通風呂、入浴なしの順に小さくなる傾向があったが有意な差は認められなかった。総睡眠時間(TST)は普通風呂、温泉、入浴なしの順で大きく(p<0.05)、中途覚醒時間 (WASO)も同様の順に小さい傾向が見られた。入浴した2群は入浴後に深部体温が大きく上昇し、最初の40分間で有意に減少していた(p<0.05)。DPGは入浴後増加したが、温泉浴で最も大きくなった。DPGの変化は近位皮膚温の減少と強く関係し、最も近位皮膚温が低下したのは温泉浴であった。入浴後から就寝時または朝方までの深部体温の低下量は、温泉、普通風呂、入浴しない場合の順で有意に大きかった(p<0.05)。体動量やCFF、眠気などについては、3条件間で有意な差を認めなかった。【考察】 就寝前の入浴が睡眠を促進・改善することを確認した。このような睡眠の変化は、深部体温の上昇と下降、DPGの増大と体熱放散が関係していると考えられる。温泉浴はこれらの指標で最も効果的であった。温泉の含有成分が大きな体温変動をもたらし、睡眠を促進していることが示唆された。温泉や入浴は入眠しやすく、熟睡をもたらす可能性があることが脳波を用いて検証することができた。【理学療法学研究としての意義】 平成9年の文部科学省の調査では、「日本人の成人の5人に1人は睡眠障害の症状を持つ」と言われており、良質な睡眠を上手に確保することは、現代人の大きな課題である。温泉療法は理学療法の一つとして疼痛緩和や健康増進に使われてきたが、未知な部分も多い。こうした分野での研究は意義のあるものだと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Dd0847-Dd0847, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548019584
  • NII論文ID
    130004693368
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.dd0847.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ