人工股関節置換術後患者の大殿筋に対する筋力トレーニング方法の筋電図学的分析
説明
【目的】変形性股関節症により股関節に問題を抱えた患者に対する治療課題は,局所の股関節機能の改善を基盤として,荷重位で股関節機能を十分に発揮させることにより,歩行を中心とした動作の改善を図ることである.このため,股関節疾患患者の歩行を中心とした動作の改善のためには局所の股関節機能を図ることは不可欠で,股関節機能の向上のための効率的かつ適切な筋力トレーニングの実施が必要となる.臨床場面において,股関節疾患患者の大殿筋の筋力トレーニング方法の一つとして,腹臥位での股関節伸展運動を処方することは多い.しかし,股関節疾患患者の股関節伸展運動時には,骨盤の前傾や腰椎前弯の代償運動などが認められ,体幹・骨盤と股関節の分離した運動が行えず,目的とした股関節運動や適切な大殿筋の筋収縮を得られないことをしばしば経験する.そこで,本研究の目的は,大殿筋の筋力強化として広く実施されているトレーニング方法の筋電図学的分析を行い,より効率的な股関節機能の向上のためのトレーニング方法を検討することである.<BR>【方法】対象は,片側変形性股関節症により人工股関節置換術を施行され,術後4週が経過した10名(男性3名,女性7名,年齢63.1±6.1歳,身長154.5±9.1cm,体重51.4±8.3kg)とした.手術のアプローチ方法は前外側であり,股関節運動時や歩行中に強い痛みを訴える者はいなかった.また,全例において,術側の他動的股関節伸展角度は5度以上であった.動作課題は,股関節伸展運動,骨盤後傾位での股関節伸展運動,ブリッジ運動,大殿筋のセッティングとした.股関節伸展運動と骨盤後傾位での股関節伸展運動に関しては,腹臥位にて,膝関節0度,股関節内外旋中間位にて股関節伸展5度で保持させた時の筋活動を計測した.また,骨盤後傾位の肢位は,腹臥位で骨盤の下に枕を置き,腰椎後弯させた状態とした.ブリッジ動作については,背臥位で両脚の足底を接地および膝関節90度屈曲させ,股関節伸展0度にて殿部を保持させた時の筋活動を測定した.なお,各動作は5秒間の等尺性運動にて行い,各課題の順番はランダムに行った.筋電図の測定に関しては,測定筋を術側の大殿筋上部線維(以下,GM)と腰部脊柱起立筋(以下,LES)とし,表面筋電図計Data LINK(Biometric社製)を使用した.筋電図の波形処理は,測定した生波形から安定した3秒間をRoot Mean Square(以下,RMS)により平滑化し,腹臥位での股関節伸展運動時の筋活動を100%として各測定値を正規化し,%RMSを算出した.さらに,各種動作時におけるGM/LES比を算出した.統計処理には,Friedman検定およびSteel-dwass法による多重比較検定を用い,統計学的有意基準はすべて5%未満とした.<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た.<BR>【結果と考察】GMの%RMSは,骨盤後傾位での股関節伸展運動は130.8±44.9%,ブリッジ運動は94.2±37.0%,大殿筋のセッティングは71.6±33.3%であった.多重比較の結果,GMの%RMSは,骨盤後傾位での股関節伸展運動は大殿筋のセッティングと比較して有意に高い値を示した.LESの%RMSは,骨盤後傾位での股関節伸展運動は79.2±20.4%,ブリッジ運動は102.2±23.0%,大殿筋のセッティングは58.0±32.1%であった.多重比較の結果,LESの%RMSは,ブリッジ運動では大殿筋のセッティングと比較して有意に高い値を示した.また,GM/LES比に関しては,骨盤後傾位での股関節伸展運動は187.4±115.2,ブリッジ運動は94.8 ±41.6,大殿筋のセッティングは155.7±121.2であり,骨盤後傾位での股関節伸展運動ではブリッジ運動と比較して有意に高い値を示した.これらの結果から,骨盤後傾位での股関節伸展運動では,LESの筋活動を抑えるとともにGMの高い筋活動を得ることが可能となることが明らかとなった.以上から,骨盤後傾位での股関節伸展運動は,局所的な股関節機能の改善のための有用なトレーニング方法の一つとなると考えられた.<BR>【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,体幹・骨盤と股関節の分離した運動が行えず大殿筋の収縮が得られにくい股関節疾患患者に対して,より効率的な股関節機能の向上のためのトレーニング方法となることが示唆され,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた.<BR>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2041-AbPI2041, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548027264
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- NII論文ID
- 130005016581
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可