生活習慣病予防のための長期運動療法介入効果について

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抄録

【目的】<BR> 平成20年4月から始まった特定健診・特定保健指導により国民の生活習慣病への意識が大きく高まったのは言うまでもない。それに伴い現在では各企業や地方自治体で生活習慣病に対する様々な取り組みが盛んに行われている。当院では九州労災病院勤労者予防医療センターとの合同事業として、平成14年より健康づくり事業を立ち上げ、勤労者をはじめとする近隣住民を対象とした教育・評価・運動を一貫して行ってきた。今回はその中でも5年以上の長期参加者に焦点をあて、身体機能等にどのような影響がみられたのかを調査・分析した。<BR>【方法】<BR> 平成14年から健康づくり事業に継続的に5年以上参加している方45名{男性10名(年齢63.1±3.7歳)、女性35名(年齢59.8±6.2歳)}を対象とした。参加者には平日の夕方(16時~19時半)の時間帯に当院リハビリ室にて有酸素運動を含めた複合運動を実践してもらい、3ヶ月毎に各種検査を施行し、各測定データを基に医療専門職(医師、保健師、管理栄養士、理学療法士)による個別指導を行った。初回参加年度と1年後、3年後、5年後時点での参加者の等速性膝伸展筋力、血圧、HDLコレステロール、体脂肪率、BMIのデータ分析を行った。また、健康づくり参加後の自身の健康への効果などについて郵送によるアンケートを実施した。統計学的分析は、初回から5年後までの測定結果の分析に反復測定分散分析を使用し、多重比較にはTukey法を用いて処理を行った。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 今研究の参加者には事前に同意を得ており、同時に研究等へのデータの使用への同意も得た。<BR>【結果】<BR> 膝伸展トルクに関しては初回(132.8%)に対し、1年後(152.8%)、3年後(154.6%)と有意に膝伸展筋力の向上を認めた(p<0.01)。血圧に関しては最高血圧が初回(145.2mmHg)に対し、1年後(131.4mmHg)、3年後(131.6mmHg)、5年後(129.2mmHg)と有意に血圧の減少を認めた(p<0.01)。最低血圧についても初回(82.4mmHg)に対し、1年後(75.8mmHg)、3年後(73.0mmHg)、5年後(71.4mmHg)と有意に血圧の減少を認めた(p<0.01)。HDLコレステロールに関しては初回(60.6mg/dl)に対し、1年後(67.0mg/dl)、3年後(68.1mg/dl)、5年(67.8mg/dl)と有意な改善が認められた(p<0.01)。体脂肪率に関しては初回(28.4%)に対し、5年後(25.4%)にのみ有意に低下が認められた(p<0.05)。BMIに関しては初回(23.5)に対し、1年後(22.3)、5年後(22.3)において有意に低下が認められた(p<0.05)。また、アンケート結果から参加効果については「生活習慣が改善できた(92.7%)」や「以前より体力がついた(78.0%)」などの意見が多かった。<BR>【考察】<BR> 今回の調査では5年間という長期の教育・評価・運動の介入により膝伸展筋力、血圧、HDLコレステロール、体脂肪率、BMIにおいて有意な改善を認めた。また、アンケート結果からも健康に対する意識向上とともに運動効果に対する期待がうかがえた。これらの結果は、定期的な運動が身体機能の改善に大きく寄与し、多くの医療専門職による健康教育が生活習慣改善を導いたことによるものと考えられる。血圧やHDLコレステロールの改善は我が国の死亡原因の上位を占める心疾患や脳血管疾患の発生リスクを低下させる可能性が高い。また、加齢に伴う膝伸展筋力低下は高齢者にとって転倒のリスクを高め、寝たきりへのきっかけとなるものである。この廃用的筋力低下を未然に予防し、維持できたことは運動器疾患の予防という点で意味深いものと言える。今後の医療の在り方としては、いかに病気やけがの発生を減らし健康な一生を送れるかが命題となってくるのではないかと思われる。その実現には理学療法士をはじめとする医療専門職が積極的に予防医療に取り組み、勤労者の時点から運動習慣を意識付け、後の未病高齢者を増加させる活動を行っていく必要があると考える。今後も今回の結果を踏まえデータ蓄積・分析を進め、さらなる検討を行ってく必要があると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 運動を主体とした健康へのアプローチは、加齢により低下する身体機能を維持・増進することが可能であり、病気やけがの発生リスクを低下させる可能性が高い。よって、理学療法士として予防医療に目を向け、疾病に苦しむ方々のリハビリだけにとどまらず、疾病そのものを予防していく活動をこれから積極的に行っていく必要性があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1447-EbPI1447, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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