外反母趾対策靴下着用による短期的および長期的効果

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抄録

【目的】外反母趾は発生頻度の高い疾患であり(Shine IB 1965)、第1趾のMP関節内側部に発赤、腫脹、疼痛をきたし、外反母趾角の増大や足趾の機能不全によってバランス能力の低下や歩行障害を引き起こすとされている。治療は観血的治療の他に保存療法として運動療法に加え靴や装具、足底挿板などが処方される。従来の靴や装具では屋内での使用や簡便さという点で疑問が残る。外反母趾を予防あるいは症状を緩和するためには、より簡便で外反母趾患者の日常生活に取り入れることが容易な保存療法が求められる。そこで筆者らは広島大学と株式会社コーポレーションパールスターが共同で開発した靴下型の矯正用具「外反母趾対策靴下(特願第2008&#8722;111012号,第2009&#8722;103487号)」を用いて、その短期的および長期的な効果を調査することを目的とした。本研究で使用した外反母趾対策靴下(以下:対策靴下)は、母趾外転筋の筋腹中央部を靴下に縫着したパッドで押圧することで母趾外転筋の緊張を高めることで第1趾側角度(外反母趾角)を減少させるように設計されている。<BR>【方法】対象は外反母趾角が20°以上の外反母趾を有する高齢女性20名とした。平均年齢(±SD)は82.0±5.8歳であった。測定項目は外反母趾角、重心の位置を示す足圧中心(COP)、歩行能力の指標である10m歩行時間とし、裸足と対策靴下の2条件で測定した。外反母趾角は全日本履物団体協議会の測定方法を参考に測定した。COPは足圧分布測定装置(Zebris社製Foot Print)を用いて、安静立位時における踵からの重心の位置を測定し、足長で除した値をパーセンテージで表示し分析に用いた。10m歩行時間は10m区間をできるだけ速く歩かせ、時間を測定した。測定は、初回時と3ヶ月後に、同様の方法で実施した。対象には4足の靴下を渡して就寝時以外着用させ、20名全員が週5日以上着用できた。統計学的分析は、初回時の各項目における裸足と対策靴下の2条件間の差を比較した。また、初回時と3ヶ月後の裸足での外反母趾角、COP、10m歩行時間の差を比較した。いずれも対応のあるt検定を行い、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】対象者に対し、本研究の目的および方法を十分に説明し、紙面で同意を得た。なお研究に先立ち、福原リハビリテーション整形外科・内科医院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:022)。<BR>【結果】初回測定時の裸足と対策靴下着用時の各測定項目の変化(平均±SD)は、外反母趾角は裸足で44.4±8.2°、対策靴下で34.0±1.4°となり、平均10.4°減少した(p<0.01)。安静立位時のCOPは裸足で36.0±11.8%、対策靴下で38.1±8.7%となり、平均2.1%前方へ移動した。10m歩行時間は裸足で10.1±1.6秒、対策靴下で9.8±1.9秒となり、平均0.3秒減少した。3ヶ月後の裸足での各測定項目の変化(平均±SD)は、外反母趾角は37.7±6.3°となり、平均6.3°減少した(p<0.01)。安静立位時のCOPは41.0±8.5%となり、平均5.0%前方へ移動した (p<0.01)。10m歩行時間は8.6±0.4秒となり、初回時に比べて平均1.4秒減少した(p<0.01)。<BR>【考察】外反母趾対策靴下を着用することで、外反母趾の変形を平均10.4°減少させることができた。今回の結果は従来のtoe separator付き装具などの装着で3~7°の外反母趾角の矯正効果が得られるとする報告(Tang SFら 2002)と比べても同等あるいはそれ以上の効果があるといえる。つまり第1趾の外転作用を担う母趾外転筋への刺激によって対象の運動機能を賦活させ、違和感なく矯正効果が得られたと考えられる。また、外反母趾対策靴下を3ヶ月に渡り継続して使用することで、裸足の状態でも外反母趾角が平均6.3°減少し、長期間使用することで外反母趾角を減少しうることが示された。今回長期的な効果としてCOPおよび10m歩行時間において有意な改善がみられた。これは外反母趾角の減少により前足部の機能が向上し、さらにその状態が維持できることで足部全体の機能が改善され、重心の前方への移行や歩行速度の上昇に至ったと考えられる。今回対象とした高齢者では外反母趾によって転倒のリスクが高まることも考えられ、転倒予防の視点からも足趾の機能維持や改善は重要である。本研究の結果により、日常用品である靴下によって、母趾をrealignmentした状態で母趾外転筋の活動を促通でき、外反母趾角の減少や歩行能力を改善できる可能性が示されたと考えている。<BR>【理学療法学研究としての意義】外反母趾の治療や進行の予防はこれまで様々行われているが、患者が日常生活で簡便に使用し易いものは多くない。本研究では日常用品である「靴下」によって外反母趾角が減少できることが確認できた。また継続的に使用することで裸足においても外反母趾角を減少させることができ、歩行能力に改善がみとめられたことからも理学療法の発展に意義のあるものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), E3O2217-E3O2217, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548057344
  • NII論文ID
    130004582793
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.e3o2217.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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