下腿周径と前腕長による体重の予測

  • 吉松 竜貴
    東京工科大学 医療保健学部 理学療法学科
  • 原 毅
    国際医療福祉大学三田病院 リハビリテーション室
  • 林 悠太
    慈誠会記念病院 リハビリテーション科 筑波大学大学院 人間総合化学研究科 生涯発達専攻 リハビリテーションコース
  • 武田 光二
    慈誠会記念病院 リハビリテーション科
  • 山田 伸広
    慈誠会記念病院 リハビリテーション科
  • 櫻井 桃子
    上板橋病院 リハビリテーション科
  • 西田 裕介
    聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部 理学療法学専攻
  • 久保 晃
    国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
  • 丸山 仁司
    国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科

Search this article

Description

【目的】<BR> 高齢患者には栄養不良が多く潜在しており、定期的な栄養評価が重要である。栄養スクリーニングの指標の一つに体重があるが、在宅では体重測定が行えないことも多い。本研究の目的は、下腿周径をはじめとした身体計測値による体重の予測式を開発し、その精度を検証することである。<BR>【方法】<BR> 対象は、都内某病院の医療療養病床または介護療養型医療病床に入院中の高齢患者のうちリハビリテーション科へ処方のあった56例(男性22例、女性34例、年齢81.1±8.7歳:平均±標準偏差)とした。<BR> 主な測定項目は体重、下腿周径、前腕長、下腿長とした。また、属性情報として、性別、年齢、要介護度、主たる疾患名、療養継続期間、栄養摂取方法をカルテより調査し、機能的自立度評価法(FIM)を評価した。<BR> 体重は車椅子対応型体重計(アビリティーズ社製、ウェイトロンII)もしくはストレッチャー型体重計(A&D 社製 AD-6101C)にて衣類等着用下で測定し、得られた値から1kgを引いた値を測定値とした。<BR> 下腿周径の測定部位は、西田ら(2009)によって健常成人の下腿三頭筋最大膨隆部が存在すると報告された部位、すなわち腓骨頭から外果を結ぶ距離の腓骨頭から26%の位置とした。測定肢位は、背臥位で膝関節をできる限り伸展させ、足関節を自由にした姿勢とした。前腕長と下腿長は久保ら(2009)の方法に基づいて測定した。すなわち、前腕長は肘頭近位部から尺骨茎状突起遠位部まで、下腿長は腓骨頭近位部から外果遠位部までとした。測定肢位は側臥位または座位にて上下肢をできる限り伸展した姿勢とした。測定側は対象者の非障害側ないし障害の軽度な側とした。なお、周径、肢長の測定は、SANWA社製のメジャーを用いて、対象者の非障害側ないし障害の軽度な側で行われた。測定回数は各1回とし、0.5cmを最小単位とした。<BR> 統計学的検討として、属性情報の要因が測定項目に与える影響を検証するため、性別、要介護度、主たる疾患名、療養継続期間、栄養摂取方法の5変数を要因とした分散分析を行った。続いて、体重に寄与する変数を抽出し予測式を作成するために重回帰分析を行った。従属変数は体重とし、独立変数は下腿周径、前腕長、下腿長とした。また、性別、年齢、FIMを調整値として独立変数に加えた。変数選択にはステップワイズ法を用いた。なお、分析に先立ち、測定値間に多重共線性がないことを確認した。選択された独立変数を用いて体重の予測式を作成した。その後、予測式の精度を検証するために、実測体重と予測体重の単回帰分析、および残差分析を行った。全ての検討にSPSS 17.0 for Windowsを使用し、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究の主旨を説明し同意を得た。認知機能の低下が疑われる場合には、家族へ研究の主旨を説明し、同意を得た。<BR>【結果】<BR> 対象の体重は男性44.6±7.9kg、女性38.3±8.4kg、下腿周径は男性25.5±3.4cm、女性24.9±3.8cm、前腕長は男性25.4±1.0cm、女性23.3±1.0cm、下腿長は男性34.4±2.1cm、女性32.1±1.7cmであった。分散分析により性差の要因で体重、前腕長、下腿長に主効果を認めた。下腿周径は全ての要因で主効果を認めなかった。<BR> 重回帰分析では、下腿周径(β = 0.81, p < 0.001)と前腕長(β = 0.37, p < 0.001)が有意な変数として抽出された。体重予測式は「体重=-61.03+1.93×下腿周径 [cm]+2.21×前腕長 [cm]」であった(adjusted R2 = 0.86, p < 0.001)。<BR> 実測体重と予測体重の相関係数は0.93(p < 0.001)であり、回帰直線は「y = x」の直線に近似した。実測体重と予測体重の残差の平均値は0.0kg、標準偏差は±3.3kg、標準誤差は±0.4kgであった。残差の最小値は-7.3kg、最大値は7.7kgであった。残差は正規分布しており、系統的なバラツキは認めなかった。残差が実測体重の3%以内だった者は20例(35.7%)、5%以内だった者は27例(48.2%)、7.5%以内だった者は38例(67.9%)、10%以内だった者は44例(78.6%)であった。<BR>【考察】<BR> 高齢患者を対象とした下腿周径と前腕長による体重の予測式を開発し、残差分析により式の精度が高いことが示された。ただし、誤差が臨床的に許容できるかは今後も議論が必要であり、利用には注意が必要である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究は、在宅、あるいは、車椅子対応型やストレッチャー式体重計がない環境で体重を予測することを可能とした。様々な場面でより多くの高齢患者に対し栄養評価を行うことができるため、運動療法のリスク軽減や効率上昇につながるだろう。

Journal

Details 詳細情報について

Report a problem

Back to top