底背屈制動機能つき短下肢装具が二分脊椎症の歩容と筋活動におよぼす影響について

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  • 糸数 昌史
    国際医療福祉リハビリテーションセンター 国際医療福祉大学大学院

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抄録

【目的】残存運動最下髄節レベルがL4~L5の二分脊椎症(Spina Bifida:SB)は歩行可能ではあるが、ヒラメ筋などの抗重力筋の筋力低下がみられ、膝を屈曲させて前方に突き出し、体幹を後方に反らせた特徴的な立位姿勢をとっている。また,歩行では,初期接地~荷重応答期に下腿の前傾に伴う急激な足関節背屈、膝関節屈曲運動が生じたcrouch gaitを示し、両脚支持期の過度な重心(COG)の下降と,体幹や骨盤の側屈・回旋動作による代償動作がみられる。臨床場面では短下肢装具(AFO)を用いた背屈制限により立位や歩行の安定を図ることが多いが歩容を改善することは難しい。近年、足継手に底屈制動機構を備えたAFOが開発され、脳卒中片麻痺者における歩容改善の効果が報告されている。そこで、本研究ではcrouch gaitを示すSB患者を対象に,足関節運動に制動をかけることのできる底背屈制動機能つきAFO(DB-AFO)の効果を運動学的分析と下肢筋活動の計測を行い評価した。<BR>【方法】対象者は L4~L5レベルの歩行可能なSB患者3 名とした。課題は 10m の自由歩度で、1) AFOなし 2)金属支柱つき短下肢装具(M-AFO) 3)DB-AFOの 3 条件を設定した。歩行の評価は赤外線 カメラ12台と床反力計6枚で構成される三次元動作分析装置(VICON612)を用いて、歩行速度・歩幅・ストライド長・ケイデンス・関節角度・COG上下方向位置の移動量を求めた。下肢筋活動は2名の対象者にて計測し、表面筋電計SX230(DKH社製)を用い、能動電極SX230W (Biometrics社製)をヒラメ筋・腓腹筋内側頭・前脛骨筋・大腿直筋に貼付し、サンプリング周波数1000Hzで計測し、全波整流・フィルタリング処理後に1歩行周期を100%として時間の正規化を行った.振幅の正規化はAFOなし歩行の最大電位の平均値を100%とした。 データ分析は、対象者ごとのパ ラメータの試行間平均値を求め、各条件間で比較した。統計処理は一元配置分散分析を用い、その後多重比較検定(Tukey-Kramer法)により、それぞれの群間比較を行った。なお、統計処理における有意性は危険率 5% 水準で判定した。<BR>【説明と同意】本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を受けた(承認番号08-76)。また、被験者とその家族には本研究の目的・方法・リスクの説明 を行い、書面による同意を得た。<BR>【結果】各対象者の関節角度は、DB-AFO装着時に立脚期の下肢屈曲傾向が改善した。DB-AFO装着時のCOG上下方向位置は、AFOなし,M-AFOの条件に比べて両脚支持期でCOGの過度な下降が減少し、単脚支持期においてCOGの位置が高くなった。筋活動はM-AFOの条件で前脛骨筋の活動が荷重応答期後に増加していた。DB-AFOの条件では、前脛骨筋の過度な活動が減少し、ヒラメ筋・腓腹筋の活動が有意に増加した。<BR>【考察】残存運動最下髄節レベルがL4~L5のSB患者は、初期接地~荷重応答期後に下腿の前傾に伴う急激な足関節背屈、膝関節屈曲運動が生じ,下肢の屈曲傾向が強いcrouch gaitを示す。その結果、ヒールロッカーやアンクルロッカー機構が働かず、COGの動きを利用した効率的な歩行動作が困難であり、体幹の回旋・側 屈といった代償動作がみられることも多い。DB-AFOを装着することで、底屈制動が初期接地~荷重応答期にかけて生じ、背屈制動は荷重応答期以後に生じる下腿前傾運動の制動と、対側下肢の立脚終期~前遊脚期の膝関節屈曲を伴う足関節背屈運動の制動がなされたとが考えられた。その結果、立脚期の下肢屈曲傾向が改善されることで、両脚支持期のCOG下降を防ぎ、単脚支持期のCOG位置を高く保つことができたと考えられた。下肢筋活動はM-AFOの条件では前脛骨筋の活動がみられたが、荷重応答期後の時期であり、ヒールロッカー機能において前脛骨筋は有効に機能していないことが示唆された.また、前脛骨筋の活動の遅延が下腿の過度な前傾を助長し、下肢屈曲傾向を強めることが考えられた。本計測の結果から、DB-AFOがSB患者の歩容を変化させ、歩行中の下肢屈曲傾向を改善し、COGの移動を円滑にすることで、歩行効率を向上させると考えられた。また、背屈制動機能が足関節底屈筋の遠心性収縮を代償し、拮抗筋である前脛骨筋の活動を抑制することで、足関節底屈筋の活動を促すことが考えられた。 今後はより多くの被験者のデータを検討してDB-AFOの適応と制動力とその制動角度範囲を明らかにすること、長期的な装着効果などの評価が必要と考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は歩行可能なSB患者の歩容が短下肢装具の足継手による制動機能によって変化することを示し、SB患者への装具療法や理学療法の新たな展開につながると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1418-EbPI1418, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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