当センターにおける装具作製難渋例への対応

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抄録

【目的】<BR>当センターは、更生相談所を有し、市町村の依頼により身体障害者の補装具の相談・処方・判定を行っている (平成21年度、装具作製223件) 。加えて平成20年10月からは、補装具作製の専門外来である「補装具外来」も始まった (平成21年7月10日から平成22年11月5日までに装具作製207件) 。多くの対象者は、これらを通じて補装具の作製が終了となるが、障害の内容や程度によっては、従来の方法のみでは十分な結果を出すことが困難なことがある。その場合は短期に入院をして、医師以外に理学療法士や義肢装具士が加わり、装具の種類や部品などを吟味していくことになる。今回、これら装具作製の難渋例に対して、試行錯誤を重ねることで、機能の向上や歩行能力が改善した症例を報告する。<BR>【対象と方法】<BR><入院中の流れ>更生相談所及び補装具外来から、装具作製目的にて入院。その後医師のオーダーにて理学療法開始し、身体機能評価、装具適合チェック、歩行練習等を繰り返しながら、装具の完成に至る。<BR><症例1>反張膝の増悪による歩行不安定に対して、長下肢装具の継手を工夫した例<BR>60代男性、脳出血、右片麻痺、現病歴:平成7年左被殻出血。右片麻痺重度(Br-stageIII)にてプラスチック短下肢装具を作製し、退院後施設にて自立した生活を送るが、平成20年より右下肢の反張膝が著明となり、装具は破損。装具の再作製目的にて、平成22年1月当センター入院。<BR><症例2>下肢の変形拘縮に対して、短下肢装具の三次元的アライメントを考慮した例<BR>30代女性、脳出血、左片麻痺、現病歴:平成12年右被殻出血、内反尖足が強く(Br-stageIII)、平成15年アキレス腱延長術実施。両側股関節伸展が-30°と拘縮重度。退院後デイサービス利用にて歩行は継続していた。その後装具が老朽化し不適合。当初外来にて一般的なアライメントで装具の採型をするが歩行不能。装具再作製目的にて、平成21年1月当センター入院。<BR><症例3>大腿骨偽関節に対する膝装具のずり落ちに対して、腰ベルトを装着した例<BR>70代男性、大腿骨骨折後偽関節、大腿骨遷延治癒するも再骨折の危険性あり。現病歴:昭和59年交通事故により右大腿骨骨折。その後、偽関節となり膝装具を作製するが適合不良。装具再検討のために、平成21年1月当センター入院。<BR>【説明と同意】<BR>学会発表に際しては、発表の趣旨、守秘義務、情報管理について対象ケースに対して十分に説明を行い、同意が得られた上で、書面での承諾を得た。なお本発表は、当センター倫理委員会にて承認済みである。<BR>【結果】<BR><症例1><BR>当初、短下肢装具の強度や背屈角度を調整することにより、歩行中の反張膝防止を試みるが制御不能。その後、長下肢装具(semiKAFO)を作製するが反張膝残存。膝伸展制限を加えた継手を作製することで、T字杖と長下肢装具にて病院内歩行自立となった。<BR><症例2><BR>当初、一般的なアライメント(背屈0°、内反、0°、外転0°)にて金属支柱付き短下肢(AFO)装具を作製したが、つま先が地面に設置せず歩行不可。その後、三次元的アライメント(背屈-15°、外反10°、外転5°)を考慮に入れた装具を作製し、4点杖とAFOにて監視以上の歩行能力を獲得。<BR><症例3><BR>当初、外来にて骨折予防のための膝装具を作製したが重さや適合不良、歩行中のずり落ちが原因で患者の受け入れ不良。その後、膝装具の軽量化及び骨盤ベルトを装着することでずり落ちを解消。歩行は病院内自立であった。<BR>【考察】<BR>下肢装具は、障害を抱え歩行困難に陥った患者に対して、その機能や能力を補う用具として絶大な効果を発揮する。しかし、障害の程度や内容によっては、従来の方法のみでは十分な結果を出せないことが少なくない。症例1では、膝の制御に対して長下肢装具を作製したが、長下肢装具は本来膝折れに対して有効であり、反張膝に対しては十分とはいえない。そこで、膝継手に伸展制限を加えることで問題を解消した。また症例2では、従来ならば、失敗装具と批判されるようなアライメントで作製した装具が、患者からは最も歩きやすいという評価を得た。症例3では、膝装具のずり落ちに対して、股義足の発想を導入し骨盤ベルトを装着することによって問題を解消した。以上のように、特殊な器具や発想ではなく、身近にある道具や経験を活用することによって、装具の適応範囲や効果を飛躍的に向上させる可能性が示された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>装具は身体の機能低下を補い、支持性や運動能力を向上させる用具として、有効性が高く認められている。その適応範囲を広げる試みは、社会的に広く貢献できるものと考えられる。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1420-EbPI1420, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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