近赤外分光法を用いた踵骨部圧迫と除圧による血流動態の変化

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  • ウレタンフォームマットレスとエアーマットレスでの比較

抄録

【目的】<BR>我が国は、超高齢社会に突入し在宅高齢者が増えている。日本褥瘡学会実態調査委員会の報告(2008)によると、褥瘡有病者の50%以上が75歳以上の後期高齢者である。在宅での褥瘡有病率は8.32%、推定発生率は6.27%と最も多い。また褥瘡発生部位は仙骨部が最も高く、次いで踵骨部である。体圧分散寝具の使用状況では、エアーマットレスが最も高く、次いでウレタンフォームマットレスである。Berlowitz(2007)によると、褥瘡発生のメカニズムとして1.阻血性障害、2.再灌流障害、3.リンパ系機能障害、4.細胞・組織の機械的変形が複合的に関与すると述べている。圧迫と除圧や、ウレタンフォームマットレスとエアーマットレスでの比較による踵骨部の血流動態の測定は、阻血性障害と再灌流障害を確認する指標となりえると考える。本研究は、踵骨部の圧迫・除圧による血流動態の変化を、使用頻度の高いウレタンフォームマットレスとエアーマットレスで比較し、どちらのマットレスが血流動態に与える影響が少ないかを明らかにすることが目的である。<BR>【方法】<BR>対象は健常成人8名(男性1名、女性7名)、平均年齢21.6±2.8歳、平均身長160.6±6.5cm、平均体重53.3±7.1kg、平均BMI20.6±2.1kg/m<SUP>2<SUP>であった。踵骨隆起を触診にて確認し近赤外分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)(OMEGAWAVE社製 BOM-L1TRW)のディテクタを踵骨隆起の外側に張り付けた。被験者は、ベッド(PARAAMOUNT BED)にウレタンフォームマットレス(以下ウレタン)(PARAAMOUNT BED社製 マキシフロートマットレスKE-801A)とエアーマットレス(以下エアー)(PARAAMOUNT BED社製 ここちあKE901-Q)を置きシーツを被せたマットレスに背臥位となり、踵骨部圧迫20分(以下圧迫)、踵骨部除圧20分(以下除圧)の合計40分間の酸素化ヘモグロビン(以下OXY Hb)、脱酸素化ヘモグロビン(以下deOXY Hb)、総ヘモグロビン(以下TOTAL Hb)、組織酸素飽和度(以下StO2)を計測した。各マットレスへの背臥位は順不同に行い、エアーは対象者の体重により圧を切り替えた。踵骨部圧迫は対象者が背臥位となることで加わる圧によるもので、踵骨に自重以上の圧力は加えないものとした。検討は各マットレスでのOXY Hb、deOXY Hb、TOTAL Hb、StO2の圧迫20分間の平均値と除圧20分間の平均値をデータとし、同一マットレスでの圧迫と除圧、圧迫時と除圧時のマットレスでの比較を対応のあるt検定を行い、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】<BR>本研究は大学の倫理委員会で承認を受けており、全ての対象者には、本研究の計画書による説明を口頭および文章で行い、書面による同意を得た。また、同意書は2部作成し、1部は対象者が、もう1部は検者が保管した。<BR>【結果】<BR>圧迫時と除圧時での比較では、ウレタンのOXY Hbの圧迫と除圧(p=0.02)、deOXY Hbの圧迫と除圧、StO2の圧迫と除圧(p=0.001)、エアーのStO2の圧迫と除圧(p=0.007)に有意差を認めた。ウレタンのTOTAL Hbの圧迫と除圧、エアーのOXY Hbの圧迫と除圧、deOXY Hbの圧迫と除圧、TOTAL Hbの圧迫と除圧では、有意差は認められなかった。圧迫時及び除圧時のマットレスでの比較では、OXY Hb、deOXY Hb、TOTAL Hb、StO2の全てにおいて有意差は認めなかった。<BR>【考察】<BR>ウレタンの圧迫後にOXY Hbが14%増加し、deOXY Hbは30%減少、TOTAL Hbは4%増加、StO2は9%増加した。これは組織圧迫による阻血状態とまでは言えないが、除圧時に反応性充血が起こり、血流量が増加していると示唆された。エアーの圧迫後には、StO2以外に有意差はないものの、OXY Hbが9%増加し、deOXY Hbは20%減少、TOTAL Hbは7%増加、StO2は6%増加した。エアーにおいても圧迫により血流が減少し、除圧時には反応性充血が起こることが示唆された。マットレスでの比較では、有意差は無いものの、ウレタンの方がエアーに比べ圧迫後の除圧による変化量が大きく、寝具による差が明らかであった。長期臥床者では、長時間の圧迫による阻血性障害が生じ、姿勢変換(除圧)によるり、血流量増加で再灌流障害が生じ、褥瘡を発生させることが考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>体圧分散寝具であっても、踵骨部は圧迫により血流は減少し阻血状態に陥りやすい。長時間の圧迫では阻血性障害が生じ、除圧による再灌流障害により褥瘡発生の危険性が示唆された。これらから理学療法士は、可能な限り対象者の姿勢変換や日常生活動作向上、ベッド離床などの活動性の向上に努め、また在宅生活者であればその家族に活動性向上のための介助方法等を指導する必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EbPI1398-EbPI1398, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548157056
  • NII論文ID
    130005017612
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ebpi1398.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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