学校生活の支援を中心に関わった骨形成不全症の一症例

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  • 森 鉄矢
    北海道立旭川肢体不自由児総合療育センター訓練課

抄録

【目的】<BR>発達障害の分野では,成長に合わせて整形外科的な手術が必要になることがあり,その際には家庭から離れて数ヶ月間施設入所をすることが一般的となっている.地域で長年生活してきた方にとってはこのような入所は負担となることが多く,退所後に地域に戻る際にも授業や手術後の配慮などに難しさを感じることが多い.今回,高校受験の約1年前に手術を施行した骨形成不全症の女児を担当する機会を得た.本ケースにおいては,術後プログラムの多くを入所ではなく通所で進めた.また,地域の学校に戻るにあたり,学校内の生活や課題について考える機会が多くあったので,術前後の経過と学校生活支援に関して報告する.<BR>【方法】<BR>症例1名に関して,担当を開始してからの約2年間の経過を,その時期ごとの出来事(骨折,手術,受験,中学卒業と高校入学)で区切り,身体面の状況および治療プログラムの変化,学校生活での課題を検討した.症例紹介: 17歳,女児.骨形成不全症.2歳11ヶ月時当センター理学療法初診.生後より1~2年に一度ペースで骨折.1歳と8歳時に両下肢髄内釘固定術施行.日常生活では車椅子使用が主で,場面によって杖・歩行器歩行可能.<BR>【説明と同意】<BR>発表にあたり,事前に本人および保護者に本研究の内容と目的を説明した.また,個人情報に関わる事項に関しては,研究に最低限必要な範囲でしか表記しないこと,写真は発表当日の資料にのみ添付することを説明し,同意を得た.<BR>【結果】<BR>《1.担当開始~骨折前(13歳10ヶ月~14歳0ヶ月)》立位時下肢荷重量の左偏位,腰椎過前弯,体幹部左右非対称.杖歩行は右片脚支持不十分.主なプログラムとして,筋力トレーニング,立位・杖歩行を通して左右差の軽減を進めていた. <BR>《2.骨折後~手術前(14歳0ヶ月~8ヶ月)》14歳0ヶ月時に左脛骨偽関節の診断.原則として下肢への荷重禁止.筋力トレーニングを,非荷重で行えるものに変更し,座位時間増加の影響による腰背部痛への対応も増やした.学校での課題としては,いじめに関する相談が挙げられた.<BR>《3.手術(14歳8ヶ月~15歳0ヶ月)》14歳8ヶ月時に他院で左脛骨骨切り,髄内釘入れ替え施行.15歳0ヶ月時に当初の予定より早く退所した.<BR>《4.退所後~受験前(15歳0ヶ月~7ヶ月)》手術の影響で,得意としていた左下肢への荷重回避が起こり,体幹部のアライメントも変化していた.早期に退所した分,術後プログラムの中で終了していない部分が多かった.外来頻度を増やして対応し,学校に影響しないよう,時間帯も夕方に統一した.プログラムは左下肢の筋力トレーニングを増やし,状態に合わせ立位・歩行練習を再開した.学校での課題としては,特学担任との連携に関して,階段に関して,進路の悩みと受験勉強による疲労が挙げられた.<BR>《5.受験直前~中学卒業(15歳7ヶ月~10ヶ月)》<BR>術前より両下肢とも支持性向上し,体幹部の左右差も減少した.立位と歩行器が数分可能で,短距離で介助無しの杖歩行も可能.プログラムは,持久力・体力の改善を目的に歩行練習量を増やした.学校での課題としては,受験及び卒業式での階段昇降が挙げられた.<BR>《6.高校入学後(15歳10ヶ月~)》<BR>入学式当日に,担任に本児の身体状況や階段昇降などでの配慮について手紙で連絡した.階段昇降が身体的に大きく負担となっていたが,現在は簡易式段差昇降機を使用することで下肢の状態も安定してきている.肩こり・腰痛の訴えは継続中.今後は大学進学や就職など更なる社会参加に向けた検討や腰痛のセルフケアの方法を検討していく必要有り.<BR>【考察】<BR>手術後は,術後プログラムを通院で進められるよう時間帯・頻度の調整を行った.また,術前より学校との情報交換の不足を感じていたので,術後には相互に見学を実施した.受験前には,疲労に対するアプローチを増やした.また,学校行事や教室移動の際の階段昇降は,骨の状態としてはまだ不安定な面もあったが,緊急度に合わせて練習した.手術と受験が重なってしまったが,方法を検討すれば術後比較的早期からでも通所で対応できる部分が多く有った.また,地域での生活を基盤とすることで,治療の際に身体状況の改善のみに固執することが少なくなった.結果的に,より実用的な日常生活動作方法検討の重要性,将来像を考えて向き合うべき課題が何かということも分かりやすくなった.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>発達障害分野は,長期間に渡り治療を継続するという特徴がある.これまでのシングルケーススタディは特殊疾患,稀少疾患についてが多い印象を持っていたが,そのようなケースに限らずとも一症例を通して日々の臨床を振り返ることは,担当している他の症例の経過や将来像を予測しやすくなるなど,臨床に研究の効果を繋げやすいと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P1084-B4P1084, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548160000
  • NII論文ID
    130004582071
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p1084.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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