不動化に伴う筋萎縮は疼痛発生に影響を与えているか

DOI
  • 沖向 雄也
    地方独立行政法人岐阜県立下呂温泉病院中央リハビリテーション部 名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 榊原 拓哉
    社会医療法人財団親和会八千代病院総合リハビリテーションセンター 名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 井筒 孝憲
    医療法人親和会松和病院リハビリテーション室 名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 中田 智章
    熱海所記念病院リハビリテーション科 名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 野村 達也
    医療法人安形医院 名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 堀田 昌志
    岩倉病院リハビリテーションセンター 名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 田崎 洋光
    名古屋学院大学リハビリテーション学部
  • 肥田 朋子
    名古屋学院大学リハビリテーション学部

書誌事項

タイトル別名
  • モデル動物に対する萎縮抑制介入から探る

抄録

【目的】<BR> 臨床において重度障害のために長期臥床を強いられたり、患部の安静目的でギプス等の固定が必要となるケースがある。関節が不動状態におかれると関節可動域制限を引き起こすばかりでなく、筋萎縮をも招くことが知られている。<BR> 筋萎縮に影響を与えるタンパク分解酵素の活性化にはマクロファージが関与しており、マクロファージはTNF-αやIL-1βなどの疼痛起因物質であるサイトカインを産生する。そのため不動化によって疼痛が生じることがあるが、筋萎縮がこの疼痛発生に関与している可能性が考えられる。そこで本研究では、関節固定期間中に不動化モデルラットに対して他動運動としてストレッチによる持続的伸張運動と、自動運動としてトレッドミル走を行うことで筋萎縮が抑制されるかどうか、また疼痛の発生を抑制できるか検討した。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は、8週齢のWister系雄ラットで、無処置群(N群、3匹)、ギプス固定のみのコントロール群(C群、4匹)、ギプス固定期間中に持続的伸張を行う群(S群、6匹)およびトレッドミルを行う群(T群、6匹)に無作為に振り分けた。C群、S群、T群はエーテル麻酔後、ネンブタール麻酔下で両足関節を最大底屈位の状態で4週間ギプス固定した。<BR> S群は不動期間中、1日1回麻酔下で足関節のギプスを除去した後、足関節最大背屈位で持続的伸張を30分間実施した。T群も同様に麻酔下でギプスを除去し、覚醒後にトレッドミル走(25m/min)を15分間実施した。持続的伸張およびトレッドミル走は週6日の頻度で施行した。<BR> 運動療法の効果判定のため固定期間中、足関節の背屈可動域と疼痛閾値を測定した。可動域は固定開始前および固定開始から1週ごとに測定し、足関節最大底屈位を0°として5°単位で読み取った。疼痛閾値は自作の1~50 g圧となる13種類のvon Frey hair filamentを用い、up-down法にて測定し、週6日のデータを平均して各週の代表値とした。4週間後、筋の横断像を分析するためにヒラメ筋を摘出した。摘出筋はトラガカントゴムに包埋し、ドライアイスで冷却したイソペンタン内で急速凍結し、Cryostatを用いて10μmの凍結切片を作成した。組織学的検討のため、HEおよびATPase染色を施し、それぞれ壊死線維数、筋線維タイプ別直径を調べた。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究は本学動物実験委員会の承認を得て実施した。<BR><BR>【結果】<BR> 固定4週後の足関節背屈可動域は、C群とT群に比べS群が有意に高値を示した(p<0.01)。<BR> C群、S群、T群間でヒラメ筋の壊死線維数に有意差は認められなかったが、T群で高値を示した。<BR> ヒラメ筋の平均筋線維直径はタイプ1・2線維ともN群と比較して他の3群で有意に低値を示し、筋線維の萎縮が認められた(p<0.01)。タイプ1線維では、C群と比べT群が有意に高値を示した(p<0.01)。タイプ2線維でもT群はC群、S群に比べ有意に高値を示した(p<0.01)。<BR> 疼痛閾値は、C群とT群は開始時に比べ、1週目以降すべての時期で有意な低下を示した(C群はp<0.05、T群はp<0.01)。S群は開始時に比べ4週目で有意な低下を示した(p<0.05)。また、固定4週目におけるT群の疼痛閾値はC群やS群に比べ有意に低値を示した(p<0.01)。<BR><BR>【考察】<BR> 筋萎縮はトレッドミル走によって抑制できたものの、疼痛は逆に助長してしまう結果となった。一方、筋萎縮を抑制できなかった持続的伸張運動では疼痛を抑制することができた。これらの結果から、筋萎縮が疼痛発生に直接関与している可能性は否定されたが、持続的伸張運動によって不動による疼痛をある程度抑制できることが示唆された。これは、持続的伸張運動によって足関節の可動域制限を一部抑制したことや佐伯らの報告による筋節長の短縮や伸張性の低下を一部抑制できたことが疼痛抑制につながったと考える。一方、T群は可動域制限を抑制できなかった点からS群ほど生理的な筋の状態を維持することができず、虚血など疼痛が発生しやすい環境となっていたことが考えられた。また、T群におけるマクロファージの出現率が他群より高い傾向にあり、影響を与えた可能性も残った。<BR> 本研究から、臨床において不活動状態を余儀なくされる患者に対して持続的伸張運動を行うことは不要な疼痛を引き起こさないために効果的であるが、トレッドミル走のような運動強度の高い理学療法を行うことは有益ではないことが推察された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究では、不動に伴って発生する筋萎縮が疼痛の発生原因になっているかどうか、ある程度の活動性を維持させて筋萎縮を抑制させることから検討した。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2008-AbPI2008, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548227968
  • NII論文ID
    130005016548
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.abpi2008.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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