中高年者における椅子立ち上がりパワー指標と等尺性膝伸展トルクとの関連
説明
【目的】下肢筋力評価のひとつである10回椅子立ち上がりテスト(Sit-To-Stand Test;STS)は,椅子からの10回の立ち座りに要した時間(STS-Time;STS-T)を評価指標としており,力学的な指標として筋力を表していない.Takaiら(2009)は,STSにおける力学的な指標として,STS-T,体重,移動距離(下肢長-椅子の座面高)を用いて算出した立ち上がりパワー指標(STS-Power index;STS-P)は,下肢筋力と高い相関があったと報告している.我々は,第45回日本理学療法学術大会において,壮年女性を対象に椅子の座面高から身長の55%の高さまでの距離を用いて算出したSTS-Pが,徒手筋力計(Hand Held Dynamometer;HHD)を用いて測定した等尺性膝伸展トルクと低い正の相関があったことを報告した.今回は,中高年者を対象にSTS-Tと膝伸展トルク,STS-T,体重,移動距離(下肢長-椅子の座面高)を用いて算出したSTS-Pと膝伸展トルクとの関連について調査した.<BR>【方法】対象は,中高年者52名(男性23名,女性29名),平均年齢55.2±7.6歳であった.測定項目は,身長,体重,下肢長,下腿長,STS-T,等尺性膝伸展力とした.STS-Tの測定開始肢位は,高さ40cmの椅子に浅く腰掛け,両上肢を胸の前で組み,両下肢を肩幅程度に開き,膝関節は軽度屈曲位とした.そして,STS-Tを2回測定し,最小値を代表値とした.STS-Pは,(下肢長-椅子の座面高)×体重×重力加速度×立ち上がり回数/立ち上がり時間の計算式から算出した.等尺性膝伸展力の測定は,HHD(μTas F-1,アニマ)を使用した.測定者は,対象者を股関節,膝関節90°屈曲位で診察台に座らせ,HHDの歪みセンサーをつけたベルトを診察台の支柱に回して固定し,歪みセンサーを下腿遠位部にあてた.そして,等尺性膝伸展力を2回測定し,左右の最大値の平均値と下腿長との積を膝伸展トルクとした.統計学的分析は,SPSS 14.0J for Windows(SPSS Inc.)を使用し,男女の基本特性の比較は対応のないt検定,STS-TおよびSTS-Pと膝伸展トルクとの関連はPearson積率相関分析を用い,危険率5%未満をもって有意とした.<BR>【説明と同意】島根大学医学部・医の倫理委員会の承認を得て,参加希望者には事前に書面にて研究の目的と内容を説明し,同意を得てから実施した.<BR>【結果】対象者の基本特性は,男性が体重65.2±13.4kg,下肢長0.78±0.03m,女性が体重54.1±8.9kg,下肢長0.73±0.04mであり,男性が有意に高値を示した.膝伸展トルクは,男性193.8±59.3Nm,女性113.8±27.9Nmであり,男性が有意に高かった.STS-Tは,男性13.1±3.2sec,女性13.6±3.5secであり,男女で有意差がなかった.STS-Pは,男性186.8±62.7W,女性128.4±41.7Wと男性が有意に高かった.また,膝伸展トルクとSTS-Tとの関連については,女性のみで有意な負の相関があった(r=-0.50,p<0.01).一方,膝伸展トルクとSTS-Pとの関連については,男女とも有意な正の相関があった(男性r=0.53,p<0.01,女性r=0.70,p<0.01,全体r=0.70,p<0.01).<BR>【考察】本研究の結果,体重,下肢長,膝伸展トルクは男性が有意に高値を示した.STS-Tは男女で有意差がなかったが,STS-Pは男性が有意に高かった.また,STS-Tと膝伸展トルクとの関連については,女性のみで中等度の負の相関があった.男性のように一定以上の筋力がある場合には,筋力が動作能力に与える影響が小さいと報告されており,立ち上がりに要した時間を指標としているSTS-Tは,男性より筋力が低い女性で関連があったと考えられる.また,STS-Pと膝伸展トルクとの関連については,男女とも中等度以上の正の相関があった. STS-Pは,体重,椅子の座面の高さから下肢長までの距離,立ち上がり回数の積から求めた仕事量を立ち座りに要した時間で除した仕事率という力学的指標であるため,HHDによる膝伸展トルクと中等度以上の相関があったと考えられる.今後は,椅子立ち上がりテストから下肢筋力を推定可能にするため,対象の年齢層を広げて調査する必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】体格を考慮した椅子立ち上がりパワー指標は,地域在住中高年者の健康増進における下肢筋力の効果判定,高齢者の介護予防のための下肢筋力評価として有用となる可能性がある.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), AbPI2011-AbPI2011, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548233216
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- NII論文ID
- 130005016551
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可