高齢者における生活空間(life space)の広がりと関連性のある要因

  • 梶原 由布
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 山田 実
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 永井 宏達
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 森 周平
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 西口 周
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 吉村 和也
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 薗田 拓也
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 青山 朋樹
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

説明

【はじめに、目的】 近年、高齢者の活動能力の低下は日頃の行動範囲の狭小化に続いて起こるとして生活空間の評価が注目されている。生活空間の評価にはLife-space assessment ( LSA )の点数化評価が一般的に用いられている。LSAはTimed Up & Go test ( TUG )やInstrumental Activity of Daily Living ( IADL )との関連が報告されているが、性別および前期・後期高齢者等の属性ごとに関連要因を調べた報告は少ない。性別が異なると身体機能や社会的役割に違いがあり、更に平均寿命の高い本邦においては高齢者と定義される人の中でも年齢に幅があることからより詳細に群分けして生活空間の広がりに関連する要因を検討する必要があると考えられる。これより、本研究の目的はLSAに関連する要因を性別および前期・後期高齢者の属性ごとに明らかにすることである。【方法】 対象者は地域在住高齢者389名(77.2 ± 6.5歳)であり、うち男性139名(35.7%)、また後期高齢者246名(63.2%)であった。調査項目はLSA、過去1年以内の転倒の有無、転倒恐怖感、10m歩行速度、dual-task下での10m歩行速度、Functional Reach test ( FR )、5 chair stand test ( 5CS )、TUGとした。除外基準は歩行に介助が必要な者、重度の認知機能低下および神経学的・整形外科的疾患の既往を有する者とした。解析方法は対象者を性別および前期・後期高齢者で4群に分けた上でLSAを従属変数、その他項目を独立変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本施設の医の倫理委員会の承認を受けて実施した。対象者全員に対し口頭にて研究の目的及び内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】 男性の前期高齢者でLSAと有意に関連していた項目はTUG(β= - .466, p < .01)、男性の後期高齢者と有意に関連していた項目は10m歩行速度(β= - .286, p< .01)と転倒恐怖感(β= - .236, p < .05)、女性の後期高齢者と有意に関連していた項目は10m歩行速度(β= - .451, p < .01)とFR (β= .172, p < .05)であった。女性の前期高齢者と有意に関連する項目は抽出されなかった。【考察】 本研究の結果より男性の前期高齢者ではTUGがLSAと有意に関連しており、この群ではバランス機能を含む複合的な移動能力がLSAに関与していると考えられる。女性の前期高齢者では今回の調査項目とLSAの間には有意な関連は見られなかった。このことは、活動範囲の狭小化には他の要因が関与している可能性を示唆しており、調査項目を増やし更なる検討が必要と考えられる。後期高齢者では男女ともに10m歩行速度がLSAと有意な関連を示しており、後期高齢者になると純粋な移動能力がLSAに関与していると考えられる。また、性別の要素を考慮に入れると、男性では転倒恐怖感、女性ではFRと有意な関連が見られたことより、男性では生活空間の狭小化に心理的な要因が関与しているのに対し、女性は身体機能が関与するものと考えられる。したがって、生活空間の広がりを維持・改善していくためには前期高齢者の男性は複合的な移動能力に対してアプローチを強調していく必要があるが、後期高齢者では第一に歩行等の移動能力に焦点を当て、さらに男性では心理面へのアプローチ、女性では移動の要素を含まないバランス能力へのアプローチを強調していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 超高齢社会となった本邦において、介護予防は重要な課題である。今回の結果より、性別および前期・後期高齢者の各群で生活空間の広がりに関与する要因が異なる可能性が示唆された。今回得られた知見は高齢者の運動機能低下予防を目指すプログラムを考えるための一助となると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ea1012-Ea1012, 2012

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548270208
  • NII論文ID
    130004693440
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ea1012.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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