脳卒中片麻痺患者における振動刺激が運動錯覚に与える影響

  • 武田 正和
    内田脳神経外科 リハビリテーションセンター
  • 竹林 秀晃
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 滝本 幸治
    土佐リハビリテーションカレッジ 理学療法学科
  • 竹村 記和
    内田脳神経外科 リハビリテーションセンター
  • 橋本 竜也
    内田脳神経外科 リハビリテーションセンター

Description

【目的】<BR> 近年,筋・運動感覚イメージの想起が運動学習に極めて重要であることが脳研究により明らかにされ,この筋・運動感覚を錯覚させる方法として振動刺激が知られている.しかし,これらの振動刺激を用いた運動錯覚研究は健常者を対象とした報告が多く,脳卒中患者を対象とした研究報告は見当たらない.そこで今回,脳卒中患者を対象に振動刺激の介入を行い感覚変化が生じるか,運動錯覚の特性を内省報告と関節位置覚検査を行い検証したので報告する.<BR>【方法】<BR> 対象は,高次機能障害のない脳卒中患者6名(右片麻痺5名,左片麻痺1名,平均年齢61.8±3.9歳,Brunnstrom stage3~5)とした.計測パラメータは,位置覚検査の誤差角度を用いた.位置覚検査の方法は,閉眼端座位で他動的に麻痺側肘関節を90度まで屈曲し,非麻痺側にて自動運動で麻痺側を認識している位置まで動かしてもらい測定した.これを,振動刺激前・振動刺激中・振動刺激後(直後~2分毎に6施行,10分間)に測定した.振動刺激(VIBRATOR:泉精器製作所社製,周波数約91.7Hz)は,麻痺側上腕二頭筋腱に1分間当て,肘関節屈曲90度以上できないように固定した.振動刺激中には,運動感覚の内省を聴取した.なお,本研究における振動刺激中の錯覚とは,屈曲位保持にも関わらず,伸展方向への運動感覚が生じることとした.認識している非麻痺側の肘関節角度の解析には,肩峰,外側上顆,橈骨茎状突起にマーカーを貼付し,デジタルビデオカメラを用いて撮影し,撮影した動画はPCに取り込み,Area61ビデオブラウザ(フリーソフト)を使用し静止画を作成した.角度算出は,その静止画をImageJ(フリーソフト)にて解析した.肘関節角度は,肩峰と外側上顆を結んだ線と外側上顆と橈骨茎状突起を結んだ線の成す角とした.統計学的処理は,振動刺激前と振動刺激中,振動刺激直後から10分後(計6施行)までの誤差角度を比較するために,反復測定一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni)を行った.有意水準は全て5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究の趣旨を説明し,書面にて参加の同意を得た.<BR>【結果】<BR> 振動刺激中の内省報告は,6名のうち4名は運動錯覚を経験し,下へさがる感じがする(伸展の運動感覚)と報告した.残り2名は特に運動感覚を経験しないと報告した.振動刺激による肘関節角度の誤差変化は,振動刺激前と振動刺激中の比較において振動刺激中に有意な伸展方向への位置覚の誤差を認めた(p<0.05).また,振動刺激後の残存効果への影響は,振動刺激中と振動刺激直後との比較において有意差は認めず,振動刺激中・振動刺激直後と振動刺激後から10分後(計5施行)との比較において,有意な位置覚の誤差を認めた(p<0.05,p<0.01).<BR>【考察】<BR> 今回の実験結果から,脳卒中患者においても振動刺激により運動錯覚が起こることが示唆された.これは,今回の脳卒中患者において,肘伸展運動がわずかにでも可能であった随意性や知覚が残存していたことが要因ではないかと考えられた.しかし,2名においては運動錯覚を経験しなかった.左片麻痺患者の1名は,振動刺激中でも位置覚の変化は見られなかった.また,もう1名は,振動刺激中にはより屈曲方向への誤差が見られた.これらのことから運動錯覚を経験しなかった要因としては,損傷半球の影響や緊張性振動反射の影響などいくつかの理由が推測されるが推測の域をでない.また,振動刺激後の残存効果については,振動刺激直後の残存は認めたが振動刺激後2分以降の残存は認めなかった.そのため,脳卒中患者においては,振動刺激直後から2分後までに振動刺激後の残存効果が消失したことが推測された.今後,脳損傷部位と運動錯覚の関係性や,運動感覚の評価やアプローチとして振動刺激の介入が動作パフォーマンスに及ぼす影響など更なる検討が必要であると考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 振動刺激により筋・運動感覚の錯覚が可能とされている.このことは,四肢を動かす感覚を忘却した患者にその四肢の動きを体験させることにより,運動の手がかりとなる可能性がある.しかし,脳卒中患者を対象とした研究はみられず,今後脳卒中患者に対する評価,訓練に応用するための基礎データを作ることが理学療法学研究としての意義である.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548308224
  • NII Article ID
    130004582079
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p1092.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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