不全対麻痺症状を呈した患者に対する装具療法の試み
Description
【目的】第3腰髄(以下;L3)不全対麻痺症状を呈した患者に対して装具療法を実施した。術後7か月を経過した時期からでも歩行に改善がみられて活動性が向上したが、その間には装具の変更と破損に対する修理が何度も必要だった。今回の装具療法の経験について症例報告する。<BR>【方法】下記経過の症例に対して、外来での装具処方検討を実施した。症例:60歳代男性 診断名:腰椎椎間板ヘルニア(L3/4、L4/5)、腰部脊柱管狭窄症後L3不全対麻痺(ASIA motor score 右35点、左35点)、神経因性膀胱、下肢感覚障害 経過:平成18年7月腰部脊柱管狭窄症、下肢筋力低下、下肢痛、しびれ、排尿障害により当院へ入院、同8月2日両側L3/4、右側L4/5拡大開窓術施行。術後、約7ヶ月間の入院加療により両側ロフストランド杖と両側金属支柱付き短下肢装具(以下;SLB)を用いて屋内歩行自立で退院となった。屋外歩行はバランスと耐久性の面から監視レベルであった。退院時の筋力は徒手筋力検査にて、膝伸展Normal、股伸展・膝屈曲Poor~Fair、足底背屈Zero、移動は両側ロフストランド杖とSLBを用いて交互歩行、10m歩行13.4秒16歩であった。<BR>【説明と同意】本発表についてはプライバシーに配慮した内容であることを説明して同意を得た。<BR>【結果】装具療法:退院時にはダブルクレンザック継手SLBを背屈5°~15°の遊動としていたが、歩幅の延長と共に退院時には著明でなかった遊脚期の足尖部から足底内側縁の床面への接触(以下:足のひっかかり)がみられる様になった。この為、退院2ヵ月後からは遊脚期の足背屈補助として後方ロッドをスプリングへ変更した。後方スプリング処方後には足のひっかかりは減少して歩行速度と歩幅の改善がみられ、片側ロフストランド杖での歩行が可能になった。退院1年後には、歩行速度と歩幅が改善一方でfoot slapや足のひっかかりの出現とスプリング破損が頻回に起こるようになったため、足底ロッカーと背屈補助スプリング付きシングルクレンザック継手のSLBを再処方した。その結果、片側T字杖での歩行が可能になって2動作前型歩行、10m歩行7.4秒14歩へと改善した。しかし、その後foot slapやlateral whipなどの代償動作が著明となり、継手軸のゆがみ、スプリング破損、シャンク破損、あぶみ破損等の装具の変形や破損を起こすようになった。この為、シングルクレンザック継手SLBでは対処困難であると考えて新たな装具を試作することとした。試行装具は以前使用していたダブルクレンザック継手SLBを用いて背屈10°ロッド固定して義足で用いられるSACH 素材を応用したクッションヒールと足底ロッカーを追加した。足関節を固定したことによるあぶみとシャンクへの機械的ストレスに配慮して、あぶみを末広がり型へ変更してシャンクの延長を行った。最終的には継手を背屈15°底屈20°の遊動(前方スプリング底屈補助)とした。この試行装具の処方後に装具破損はなく、歩行時のfoot slapやlateral whipといった代償動作と連続歩行距離が改善して屋外歩行での活動性が向上した。<BR>【考察】L3不全対麻痺症状を呈した患者に対して装具療法を実施した。術後7か月を経過した時期以降でも、装具療法により歩容と10m歩行時間、歩幅に改善がみられて屋外歩行での活動性が向上した。本症例では歩行に合わせてこまめに調整が出来るSLBが適していたが、試行装具に至るまでには装具の変更と破損に対する修理を何度も行い装具処方に苦慮した。試行装具ではfoot slapの出現とスプリング破損の多さから、踵接地時の前脛骨筋作用の代償がスプリングでは不十分であると考えてクッションヒールを用いた。スプリングやあぶみ等継手部周囲での変形や破損がみられたことから足関節を背屈固定したが、前方への推進力の妨げとならない様に足底ロッカーの位置を調整してシャンクは軽度そり上げる形状にした。これらの処方によって、平地歩行では靴足底部で踵接地からつま先離地、遊脚期へと円滑に運動を行えるようになったが、登坂歩行時や階段降段時に足関節可動域制限を訴えられたことから、最終的には足継手を遊動とした。この時に底屈補助に前方スプリングを付けたところ立位時の安定性とつま先離地が改善した。以上の過程を経て、試行装具は症例の歩行と活動性に適した装具になったと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】装具療法の経験について経過を提示することで、治療例の情報を共有することが出来る。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2009 (0), B4P2136-B4P2136, 2010
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548387456
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- NII Article ID
- 130004582133
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed