漏斗胸の胸壁運動

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抄録

【目的】漏斗胸は胸骨下部および周囲肋軟骨が異常に陥凹した形を示し,軽度の場合は無症状であるが,重度では心肺の圧迫症状などが現れる胸壁の変形である.最近の研究では,漏斗胸を有する者の54%は肺機能に異常はなく,41%が閉塞性肺疾患の傾向を示し,5%が拘束性肺疾患の傾向を示すといわれている.漏斗胸については,このような疫学的な研究や胸郭形成術術後の経過報告はあるが,胸壁運動に関する研究報告はみられない.そこで本研究では漏斗胸の形態異常部位である胸骨下部周囲を中心に胸壁前面の形状変化を計測し,先天性の形態異常が胸壁運動に与える影響を調査することを目的とした.<BR>【方法】対象者は,健常成人男性12名(年齢20.6±0.6歳,身長172.7±6.2cm,体重65.9±8.6kg,VC:4.7±0.6L,%VC:101.7±9.2%,FEV1.0:4.0±0.5L/sec,FEV1.0%:85.4±5.6%)と胸骨部に著明な凹みを認める漏斗胸の成人男性2名(漏斗胸A,漏斗胸B)とした.漏斗胸A(年齢21歳,身長177.9cm,体重71.8kg,VC:4.8L,%VC:92%,FEV1.0:4.1L/sec,FEV1.0%:83.9%)は,呼吸機能検査上,著明な問題を認めず,数値上は健常者と変わらない数値を示した.漏斗胸B(年齢20歳,身長172.2cm,体重53.2kg,VC:3.9L,%VC:78%,FEV1.0:3.6L/sec,FEV1.0%:80.9%)は拘束性換気障害の疑いが認められた.<BR>計測には3次元動作解析装置Vicon MX(VMS社)を用いた.直径9mmの赤外線反射マーカーを身体各部に貼付し,マーカーの位置変化量を胸壁形状変化量として計測した.マーカーは胸骨頸切痕,第3肋骨,胸骨剣状突起,第8肋骨,第10肋骨の高さで,身体正中線を基準に両側に向かって内側列,中央列,外側列の計6列,30箇所に貼付した.また呼気ガス分析器AS-300S(ミナト医科学社)を用い,呼吸量変化の計測も同時に行った.計測は骨盤傾斜角度0度の座位で行い,安静呼吸を5呼吸以上行わせた後,深呼吸を3回繰り返し,再度安静呼吸を行わせた.胸壁形状変化量は,安静呼気位のマーカー位置座標を基準とし,最大吸気位までの変化量を拡張変化量(mm),最大呼気位までの変化量を縮小変化量(mm)とした.また,呼吸量の変化として安静呼気位から最大吸気位までの変化量を各対象者の肺活量で正規化したものを吸気変化量(%),安静呼気位から,最大呼気位までの変化量を正規化したものを呼気変化量(%)とした.さらに安静呼気位から安静吸気位までの変化量を一回換気量(ml)とした.計測した胸壁形状変化量,呼吸変化量(吸気変化量,呼気変化量,一回換気量)の各変化量は健常成人の平均値と漏斗胸A,Bの値を別々に比較した.<BR>【説明と同意】計測を行うにあたり,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し,本人の承諾を得た後,同意書に署名した上で計測を実施した.なお,本研究は,文京学院大学保健医療技術学部倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2008-02).<BR>【結果】呼吸変化量は,漏斗胸Aは健常成人の平均値よりも大きい値を示し,呼吸機能検査の結果と同様に正常値を示した.漏斗胸Bは健常成人の平均値とほぼ同様か低い値となった.吸気時の胸壁形状変化量では変形部である腹側内側列の第3肋骨部,剣状突起部で,各対象者により結果が異なった.漏斗胸Aでは健常成人とほぼ同等以上の変化量を示した.漏斗胸Bでは特に剣状突起部の変化量が全ての方向で著しく減少を示した.他の部位においては,漏斗胸Aは健常成人と類似した結果となり,多くの部位で健常成人の平均値を上回った.漏斗胸Bは腹側の上下方向への変化量がどの部位も健常成人の平均値を下回った.<BR>【考察】漏斗胸Aでは健常成人と変わらない結果となった.漏斗胸の変形部位である胸骨下縁部の動きは,その形状のまま上前方方向へ変化していた.本例においては呼吸量や形状変化量は健常例と差がなく,漏斗胸による胸壁形状変化に対する影響はほとんどみられないと判断できる.漏斗胸の疫学では漏斗胸を有する者の54%は無症状といわれており,本例もこれにあたると思われる.漏斗胸Bでは,事前の肺機能検査において拘束性換気障害の疑いが示されていた.胸壁形状変化量は胸骨下縁を中心に上方への変化量が減少していた.この変化量の減少は,胸骨下部に特異的に生じているわけではなく,胸壁全体の変化量が減少している中で,より胸骨下部の変化量が小さくなる現象として認められた.したがって,拘束性換気障害となる要因は形態異常に起因するものと,病態として胸壁全体の運動機能低下に起因するものが互いに関連しあっていることが考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究より先天性の形態異常であっても,呼吸に伴う胸壁形状変化は健常成人と同様にみられ,病態が加味された場合は変形部位を中心に変化量がより減少していく可能性が考えられた.しかし,本研究は漏斗胸2例の計測であり,全体的な傾向を把握するまでには至っておらず,今後の計測が必要とされる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D4P3174-D4P3174, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548411392
  • NII論文ID
    130004582681
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d4p3174.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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