改良Frankel分類から予測する脊髄損傷者の獲得動作

  • 武川 真弓
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科
  • 高橋 恵子
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科
  • 杉山 真理
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科
  • 山崎 大
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科
  • 川口 桂蔵
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科
  • 中野 克己
    埼玉県総合リハビリテーションセンター 理学療法科

Description

【目的】<BR>脊髄損傷者の能力的予後予測をするにあたって、我々は過去の研究により、当センターにおいて入院時のFrankel分類(以下F分類)C2であれば、退院時に実用的な歩行を行えることを実証した。しかし、F分類C1の中にも屋内歩行自立となる者を経験する。そこで、入院時のF分類C1で退院時に実用的な歩行が可能となった者、不可能であった者を比較し、その影響因子を明らかにすることを目的に本研究を行った。結果を今後の歩行練習導入の一助としたい。<BR>【方法】<BR>対象は、2006年4月から2009年6月までに当センターに入院した脊髄損傷者209名のうち入院時の改良F分類C1であった28名(男:女=23:5名、年齢:56.4±16.1歳、発症日または手術日から当センター入院までの期間:88.0±49.0日、発症日または手術日から当センター退院までの期間:184.0±48.0日)である。なお、褥瘡治療のための入院や発症以前より歩行困難であった者は除いた。対象者を退院時に実用的な歩行が可能となったF分類D以上の者(以下D群)とCにとどまった者(以下C群)の2群に分けた。カルテより、a発症日または手術日から当センター入院までの期間、b年齢、c損傷部位(頸髄/胸髄/腰髄)、入院時のd筋緊張(弛緩/亢進)、e寝返り能力(自立/介助)、f起き上がり能力(自立/監視/介助)、g座位保持能力(上肢支持なし/あり/保持不可能)、h立位保持能力(監視/介助/不可能)、i移乗能力(自立/監視/介助)、入院中におけるj発症日または手術日から移乗自立までの期間の10項目を抜粋し、2群間で比較した。連続変数であるa.b.jはt検定、集計表で表したc.d.e.f.g.h.iはχ2乗検定を用いた。10項目の中で2群が関連あるとされた項目について、さらに重回帰分析を実施し、退院時F分類により影響がある項目を検討した。統計処理はDr.SPSSIIfor windowsで行い、有意水準は5%とした。また、関連あるとされた項目でD群となりやすい条件に当てはまる割合を調査した。<BR>【説明と同意】<BR>データは個人が特定されないように、数値化し解析を行った。また、本研究は当センター倫理委員会により、承認を得た(承認番号H21-3)。<BR>【結果】<BR>病棟内歩行が自立となった2名を含めD群は16名、C群は12名であった。2群間に関連がみられた項目はd筋緊張、e寝返り能力、h立位保持能力の3項目であった。筋緊張についてはD群に弛緩性麻痺者が多かった。寝返りの自立度は入院時から自立している者がD群に、介助だった者がC群に多い割合となった。立位保持能力では、入院時に立位が不可能だった者がD群に少なく、C群に多い割合となった。d.e.hを重回帰分析すると、立位保持能力のみ関連があった。また、統計的に有意な差はなかったが、座位保持能力ではD群の50.0%、C群の33.3%が上肢支持なしでも保持可能であった。次に条件が当てはまる割合については、上記3条件中3個当てはまっている者の100%がD群、1個も当てはまらなかった者の100%がC群、2個以上当てはまった者の80%がD群であった。<BR>【考察】<BR>本研究では、歩行に一番影響する項目は立位保持能力という結果となった。しかし、立位保持能力については練習をプログラムに導入する判断がセラピストの治療方針に左右されるなど身体能力以外の因子が影響しやすい。そのため、立位保持能力のみでは能力的予後予測の指標に適さないと考えた。<BR>一方結果から、弛緩性麻痺であり、寝返りが自立、立位保持が介助であっても可能、という3条件がすべて当てはまった者は全員がD群となり、2個以上当てはまった者は80%がD群となるため、3条件の当てはまる数を指標とする方が適していると考えた。<BR>歩行での姿勢調節時には脊柱の分節的な可動性が必要となる。弛緩性麻痺は可動性を維持するための要素であり、寝返りはそれらを評価できる統合した動作と考える。よって、この2項目が歩行について予測する適した条件と言える。損傷部位や座位保持能力に有意差がなかったことから、上肢・体幹筋力は歩行に影響する因子となりにくいと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>脊髄損傷者の能力的予後予測は必要であるが、症状が多様なことから困難なものである。本研究で明らかとなった条件の弛緩性麻痺、寝返り自立、立位保持可能という評価により、退院時の移動能力を予測できる。よって今後は目標が立てやすくなり、適切なリハビリテーションを提供できると考える。<BR>

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548421888
  • NII Article ID
    130004582110
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p2111.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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