脳梗塞急性期における離床負荷時血圧変動および併存症が症状増悪に与える影響についての検討

  • 小野 順也
    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部
  • 竹谷 晋二
    聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部
  • 寺尾 詩子
    聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部
  • 笠原 酉介
    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部
  • 川口 朋子
    聖マリアンナ医科大学東横病院リハビリテーション部
  • 山徳 雅人
    聖マリアンナ医科大学神経内科
  • 眞木 二葉
    聖マリアンナ医科大学神経内科
  • 長谷川 泰弘
    聖マリアンナ医科大学神経内科
  • 笹 益雄
    聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部

説明

【目的】脳梗塞急性期では脳血流量の変化などにより、意識レベルの低下、運動麻痺、感覚障害といった症状増悪を示す症例が存在するため、理学療法施行中には血圧や神経症状の変化を観察する必要がある。しかしながら、脳梗塞急性期における症状増悪と、臥位から座位への姿勢変化による離床負荷を行った際の血圧変動との関連については、収縮期血圧(SBP)を用いた報告は散見されるものの、脳血流量を反映するとされている平均血圧(MBP)を用いた報告は少ない。また一方で、高血圧症や糖尿病などの併存症の存在が、症状増悪に与える影響は明らかでない。本研究では、脳梗塞急性期における離床負荷時の血圧変動および併存症が症状増悪に与える影響を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】対象は2008年4月から12月までの間に、リハビリテーション依頼があった脳梗塞急性発症患者のうち、60°ギャッチアップおよび車椅子乗車による離床負荷を実施し、病棟での活動範囲拡大を行った61例(60゜ギャッチアップ施行42例、車椅子乗車施行61例)である。このうち、離床負荷時および活動範囲拡大中に神経症状の増悪が認められた症例を増悪群、認められなかった症例を非増悪群とした。各離床負荷は30分間施行し、収縮期血圧と拡張期血圧(DBP)の測定と、神経症状の観察を行った。血圧は、離床負荷開始前(安静臥位)から離床負荷開始後5分、10分、20分、30分時に、マンシェット法を用いて聴診により測定した。ここで得られたSBPとDBPよりMBP(=DBP+(SBP-DBP)/3)を算出した。臨床背景として、年齢、性別、病型(心原性塞栓症、アテローム性血栓症、ラクナ梗塞、その他)、併存症の有無(糖尿病、高血圧症、脂質異常症、心房細動、陳旧性脳梗塞、陳旧性脳出血、心不全、大動脈疾患、深部静脈血栓症、頚動脈狭窄)を診療録より後方視的に調査した。統計解析では、増悪群と非増悪群の2群間において、離床負荷時の各血圧指標の最大低下量をMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。さらに、2群間において病型および併存症の有無の割合を、カイ二乗検定とFisherの正確確率検定を用いて比較検討した。統計解析にはSPSSver.12を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り、対象者または家族にリハビリテーション開始時に文章による説明を行い、同意を得た後に行った。<BR>【結果】全61症例中、増悪群は7例(11.4%)、非増悪群は54例(88.5%)であった。症状増悪の内訳は、麻痺進行6例、意識レベル低下1例であった。60°ギャッチアップ時のSBP、DBPおよびMBPの最大低下量は増悪群と非増悪群の間で有意差は認めなかった(中央値[四分位範囲]mmHg, それぞれ2.0 [14.5] vs. 8.0 [11.5], p=0.345; 4.0 [9.0] vs. 3.0 [6.0], p=0.740; 2.5 [8.0] vs. 4.0 [9.0], p=0.474)。また車椅子乗車時においても同様の結果が得られた(それぞれ, 18.0 [14.0] vs. 9.0 [18.5], p=0.485; 4.0 [7.0] vs. 4.0 [8.5], p=0.596;6.0 [5.0] vs. 5.0 [10.0], p=0.802)。なお、離床負荷時に症状増悪を示した症例は1例であり、そのSBPの最大低下量は4mmHg、MBPの最大低下量は6mmHgであった。また、2群間において病型による差は認めなかったが(p=0.267)、非増悪群と比較して増悪群では糖尿病併存例が有意に多く(p=0.005)、糖尿病と高血圧症の両者を併存している例が有意に多かった(p=0.015)。<BR>【考察】本研究では、離床負荷時のSBPのみならずMBPにおいても、それらの最大低下量は増悪群と非増悪群で有意差を認めなかった。一方で、離床負荷時に著明な血圧低下を認めなかったものの、活動範囲拡大中に症状増悪を認めた症例が多く存在した。このような症例は糖尿病および高血圧症の併存例が多かった。これらのことより、脳梗塞急性期における症状増悪は、離床負荷による血圧変動を用いて予測することは困難であり、動脈硬化の危険因子である糖尿病と高血圧症などの併存症が影響している可能性が示唆された。このような症例に対しては、個別の離床負荷の基準の作成や、活動範囲拡大中における慎重な症状観察を行う必要性があるものと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、活動範囲を拡大する際には、離床負荷時の血圧変動のみならず、併存症を考慮すべきであることが示された。これらのことは、理学療法実施時のリスク管理を行う上で有用な知見であると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P2097-B4P2097, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548433920
  • NII論文ID
    130004582097
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p2097.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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