バイスキー使用時にターン機能を発揮しやすい姿勢調整

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抄録

【目的】関西の学校行事ではスキーを含むウィンタースポーツが多く行われる。これには特別支援学級の小児は移動/参加/楽しむ面で困難を伴う。また介助者側の気がかりから行事自体を欠席するケースもある。この現状を改善する手段としてバイスキー(Bi-Ski)の使用が有効である。しかし、一般的にレンタルできるバイスキーはバックサポートがほぼ垂直になっており姿勢保持能力が低い小児は体幹が前倒れする可能性が高い。このような前傾姿勢は疲れやすく不安定な姿勢と言える。そこで、ペルビックサポートを設置し快適かつ機能的な姿勢になるよう調整した。さらに、サポートを加えることで日常生活では座位保持装置を使用している小児に対しても、バイスキーのターン機能である重心移動が行えるよう調整した。<BR>【方法】以下に標準的な手順を述べる。1.本人の姿勢保持能力を確認し、重心移動機能を評価する。2.ウレタンフォームの汎用形を用意する。背中300×250、臀部300×200、大腿部(片側)150×300、厚さは20,30,50(単位mm)のそれぞれを用意しておくと作業が簡便になる。カッターナイフで角を落とすなどの加工をし、必要に応じてガムテープもしくはスプレーのりを用いてウレタン同士を固定する。3.ウレタンフォームをバケットシートに設置する。この時、使用者の身体状況に合わせて必要なサポートを追加したり防水シートや防寒素材を被せる場合もある。4.実際にバケットシートに座り、姿勢と運動機能を再確認する。姿勢設定はCASPER Approach(以下CA)の理論に基づいて行った。CAとはcaput(頭部)、axis(軸)、skeleton(骨格)、proportion(均整)、enjoy(楽しむ)、relax(リラックス)という座位設定における6つのキーワードの頭文字からできており村上らによって提唱されたアプローチである。姿勢保持能力の低い具体例として、ヘルペス脳炎後遺症により四肢麻痺を呈したケースを紹介する。Hofferの分類では座位不能レベル(簡易座位能力分類では3レベル)に相当し、頭部の自立保持は困難、胸椎右凸側彎、右上肢のみリーチ機能があり、普段は座位保持装置を使用している。先程の手順でペルビックサポートを設置した後、体幹のラテラルサポートとヘッドサポートをウレタンフォームで追加設置した。日頃は体幹頭部ともに左側に倒れる傾向にあるのでバケットシート自体をスキーの中心より右側にずらして設置し、右側に傾きやすい設定にした。<BR>【説明と同意】これらの実施と発表に関しては本人およびその保護者に説明を行い同意を得ている。<BR>【結果】上部体幹がバックサポートに沿うようになると,頭部を垂直位付近に保持しやすくなる。そのため疲労しにくく前方の視界も良好になる。またシートとの接触面積が増えアライメントが整うため体幹が安定し,重心移動が行いやすくなる。素材がウレタンなので褥創予防や保温性改善の効果も得られる。具体例においても、たとえ脱力しても頭部を正中位に保持することが可能となった。また頭部が大きく倒れることがないため軽度の頚部屈曲・伸展・側屈・回旋が自立可能となった。体幹の不安定性解消に伴い右上肢の機能性も向上しリーチ範囲の拡大がみられた。これら頭部と上肢の運動を用いて重心移動を能動的に行えるようになった。<BR>【考察】バイスキーに姿勢調整を加えることによって安定性と機能性の向上が得られた。ただし、本例の重心移動能力はまだ未熟であり、実際の滑走に活かすにはさらなる動作スピードアップなど練習が必要になる。今回行った方法は広い対象で応用することが可能である。姿勢保持能力が高ければより簡易のペルビックサポートで対応できると考える。バケットシートの形状を利用しているためフィッティングは短時間で行える。ウレタンは汎用形をカッターナイフで角を落とすだけの単純な加工であり専門的な技術を必要としない。そのため学校の先生や家族でも簡単かつ安価で行えるのもメリットである。実際に川村義肢チェアスキーツアーや兵庫県チェアスキー協会主催の講習会でも実践されている。まずは誰もが参加でき楽しめることが大切であり,本人や介助者が無理することがないようにこの手段を活用していただきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】運動機能を効率よく発揮するための姿勢保持は車椅子のシーティングにも共通し、小児だけでなく高齢者にとっても必要な技術と言える。快適で機能的な設定は二次障害予防や目的に適した姿勢であるので、QOLの前提になると考える。また特別支援学級に在籍する小児は近年増加傾向であり、理学療法士はその学校生活に即した関わりをしていくことが求められている。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), E3O1171-E3O1171, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548436352
  • NII論文ID
    130004582735
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.e3o1171.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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