足指握力に対する関連要因の検討

説明

【目的】<BR>足指握力に影響を与える要因は様々な研究によって報告されている.高齢者や若年女性においては足指握力と足部構造との関連が示唆されているが,若年男性を対象とした足指握力の研究はほとんどみられない.また足部は歩行の実行器官であることから身体活動量との関連が推察されるが,足趾握力と身体活動量の関係については報告されていない.そこで本研究では,若年男性における足指握力の関連要因及び,身体活動量の足指握力への関連を検討した.<BR>【方法】<BR>被験者は足部に整形外科的疾患のない,健常大学生62名(男性43名平均年齢20.7±1.4歳,女性19名20.6±1.3歳)であり,うち男性30名,女性14名に生活習慣記録機(ライフコーダplus スズケン医療機器社製)を配布した.すべての被験者に対して,身長,体重,握力,足指握力,内側縦アーチ高,足部柔軟性を測定した.足指握力の測定には足指握力測定機(デジタル式握力計 竹井機器工業株式会社製)を用い,端座位にて左右2回ずつ測定した.握力と足指握力は左右各々の最大値を平均した値をそれぞれの測定値とし,体格差を考慮して体重で除し,握力対体重比(握力/体重)と足指握力対体重比(足指握力/体重)を算出した.内側縦アーチ高率は,安静立位で舟状骨粗面から床面までの垂線の長さを,第1中足骨頭内側部から踵後面までの長さで除した値の百分率として算出した.足部柔軟性は安静立位で踵後面を後壁にしっかりと接触させ,足長を測定した.次に踵部が地面から離れないように足趾を最大限に屈曲してもらい踵部からの距離を測定し,足長除した値を足部柔軟性とした.なお,すべての項目の値はそれぞれ左右の平均値を採用した.ライフコーダを配布した34名は,歩数と身体活動量を併せて測定した.ライフコーダでは運動強度は10段階で感知され,「0」は安静を,「1~3」は歩行,「4~6」は速歩,「7~9」はジョギングレベルに相当する.本研究ではライフコーダを入水・入浴時間を除き,起床から就寝までの日常生活の身体活動量を9日間測定した.なお,分析対象は,配布日と回収日,未装着日を除き有効日は5日間以上とした.身体活動量は運動強度4以上の総時間を用い,歩数と身体活動量は有効日のデータの平均値を採用した.足指握力/体重と足部柔軟性,内側縦アーチ高率,握力/体重,歩数,身体活動量との関連をそれぞれ男女別にスピアマンの相関係数を用いて検討した.有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR>すべての被験者に対して,口頭にて研究の主旨を説明し同意を得た.<BR>【結果】<BR>男性の足指握力/体重と足部柔軟性との間に有意な相関が認められた(r= -0.505,p<0.01).その他の測定値とは男女ともに有意な相関は認めなかった.<BR>【考察】<BR>足部柔軟性について,足指握力/体重と柔軟性は男性では有意な相関が認められ,女性においても相関傾向(r= 0.409,p=0.082)が示唆された.高い足部柔軟性は足指屈筋群の張力を有効に働かせ筋出力を増大するとされ,足指握力と柔軟性との関係について高齢者や若年女性においてすでに報告されているが、本研究では新たに男性においてその関連が示され,先行研究を追認した.<BR>内側縦アーチ率は男女ともに相関がみられなかった.石坂らは筋力強化により内側縦アーチが上昇するとし,一方Basmajianらは内側縦アーチの支持機構は筋ではなく靭帯・骨構造の重要性を指摘した.本研究では内側縦アーチの支持機構は靱帯・骨構造による影響が強く,足指握力/体重とアーチ高率に関連がみられなかったと考えられる. <BR>身体活動面について,歩数と身体活動量では足指握力/体重との相関がみられなかった.足指握力は最速歩行時の推進力として関与することから,足指握力も過負荷の法則に従い,ある一定以上の負荷を足指に加えなければ,足指握力への影響は少ないのではないかと考えられる.今回の被験者について,日常生活レベルの歩行や身体活動では,現在行っている運動に関わらず足指へ影響を与えるには負荷が少なかったのではないかと考えられる.足指への影響としては,身体と同様に足部の筋骨格の形成も成長期に行われため,この時期の運動習慣・生活習慣が,特に関連が大きいのではないかと考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>転倒と足把持筋力の関連を示した報告は多く,転倒群では非転倒群と比較して足指把握力は有意に低下しているとされている.今回,男性において足指握力と足部柔軟性との関連が明らかになったことは臨床的意義が高い.今後,足部柔軟性を高めることが足指筋力に効果があるのか,さらには足部柔軟性が転倒に関連するのか,また,被験者の過去の運動習慣や生活習慣などの因子を加えた検討をする必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1295-CbPI1295, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548480128
  • NII論文ID
    130005017131
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1295.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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