骨間距踵靱帯の形態と機能について -第2報-

説明

【目的】骨間距踵靱帯は,足根骨管靱帯,頚靱帯(以下CL),前関節包靱帯(以下ACL),深内側距踵靱帯(以下DMTL)で構成されており,それぞれの靱帯の役割はある程度解明されつつあるが,距骨下関節(以下 STJ)の回内・回外運動との関係については明確になっていない.本研究では,骨間距踵靭帯の回内と回外の制御について,機能的観点から調査・検討した.<BR>【方法】対象は,佐賀大学医学部生体構造機能学解剖学・人類学分野(以下佐賀大医学部)で解剖された遺体で,男10名,女13名,右23足,左21足,計44足で,年齢は78.3±11.54歳であった.調査方法は,まず,距骨と踵骨が骨間距踵靱帯のみで連結した標本を作製した.次に,異なる標本間でSTJの動きを測定するために基準を設けた.踵骨内側では,載距突起前端から下方に伸ばした線と,踵骨の立方骨関節面内側で内側に突出した部位の頂点から後方に伸ばした線との交点と,外側では,踵骨後距骨関節面前端より下方に伸ばした線と,踵骨立方骨関節面外側で外側に突出した部位の頂点から後方に伸ばした線との交点を結ぶような形で骨に穴を開け,消息子を差し込んだ.距骨内側では,距骨頚部で距骨舟状骨関節面と距骨滑車が最も狭くなっている部位の中点と,外側では,距骨頚部で最も盛り上がっている部位で,距骨舟状骨関節面と距骨滑車の中点を結ぶような形で骨に穴を開け,消息子を差し込み, STJの動きの角度を測定するための基準線とした.左右の傾きは踵骨の消息子を水平にし,前後の傾きは踵骨の立方骨関節面の上端と下端が垂直になるようにして,踵骨を固定した.次に各靱帯を切断しながら,回内・回外の角度変化を測定した.靱帯の切断の順番として,切断無(以下NC)→CL→DMTL→ACLの順(以下CDA群),NC→DMTL→CL→ACLの順(以下DCA群)の2群に分けた.この2群において,それぞれ回内・回外を行い,水平面と前額面の2方向から写真撮影を行った.得られた画像について,2本の消息子のなす角を,2次元動作解析装置(Form finder:株インク社製)を用いて測定した.2群とも靱帯の切断順での角度の差の比較(多重比較検定)を行った. <BR>【説明と同意】佐賀大医学部の教授に目的・方法を説明し,許可を得て測定を行った.<BR>【結果】回内水平面:CDA群では,NC31.6±2.6°とCL切断33.6±8.6°の間で有意差はなく,NCとDMTL切断35.6±13.2°間で有意差があった.DCA群では,NC31.5±2.4°とDMTL切断35.5±10.4°の間で,有意差があり,DMTL切断とCL切断36.1±4.7°の間では有意差はなかった.回内前額面:CDA群では,NC10.9±4.3°とCL切断12±4.6°の間では有意差はなく,NCとDMTL切断16.4±5.3°との間で有意差があった.CDA群では,NC11.3±4.3°とDMTL切断17.3±5.7°の間では,有意差があり,DMTL切断とCL切断18.6±6.3°の間では有意差はなかった.<BR>回外水平面:CDA群では,NC13.7±3.2°とCL切断13±3.6°,DMTL切断12.4±3.3°には有意差はなく,ACL切断8.8±3.8°により有意差があった.DCA群でも,NC14.5±2.8°とDMTL切断12.6±2.6°,CL切断12.2±2.3°では有意差はなく,ACL切断8.3±2.7°により有意差があった.回外前額面:CDA群では,NC5.8±3.4°とCL切断5.7±3.5°,DMTL切断5.3±3.3°には,有意差がなく,ACL切断2.8±3.4°により有意差があった.DCA群でも,NC7.2±2.4°とDMTL切断5.7±2.5°,CL切断5.3±2.5°には有意差はなく,ACL切断2.3±2.6°により有意差があった. <BR>【考察】水平面・前額面でのCDA群の回内で,先にCLを切断しても回内角度は変化がなく,DMTL切断で有意に角度が増加した.それに対して,DCA群では,先にDMTL切断で回内角度が有意に増加した.このことから回内の制動にはDMTLが関与していることが示された.この靱帯は,足根骨管の内側の開口部で,踵骨の後距骨関節面前縁中央部付近から距骨の後踵骨関節面の前内側縁に内上方に向かって,回内の運動方向に近づきながら斜走しているため,回内を制動すると考えられる. 水平面,前額面での頚深前群,頚深前群の回外で,ACLを切断した場合にのみ,回外角度が増加したことから,回外の制動にはACLが関与していることが示された.この靱帯は,踵骨の後距骨関節面の前縁の中央やや外側から距骨の後踵骨関節面前縁で足根洞内側部に向かって,足根洞の後壁を垂直に走行しているため.回外を制動すると考えられる. <BR>【理学療法学研究としての意義】STJの回内をDMTLが,回外をACLが制動していることが明確になった.障害構造を多関節運動連鎖でとらえる場合に,脛骨の内旋に伴うSTJの回内と外旋に伴うSTJの回外を,これらの靱帯が制動・誘導しながら関節運動を制御していることが示された.<BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1294-CbPI1294, 2011

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548502144
  • NII論文ID
    130005017130
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1294.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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