上肢運動機能の定量的評価システムの実現を目指して

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タイトル別名
  • III.頚髄症患者描画能力の利き手非利き手間の比較

抄録

【目的】<BR> 我々は頚髄症などに起因する上肢機能障害の定量的評価を実現するために,座標,筆圧のデータを経時的に取得できる,ペンタブレットを活用したシステムを試作し,利き手の描画能力から頚髄症患者(以下患者)のmyelopathy handを検出可能であることを見出した.また,障害を持たない健常成人と健常高齢者を対象として利き手と非利き手との描画の特徴を運動機能の観点から報告してきた.しかし,myelopathy handは頚髄症の進行の過程において左右差を認めた報告が多くなされており,利き手・非利き手の問題と疾患による障害の問題が混在する可能性がある.そこで,今回は患者の描画の特徴について利き手と疾患の両面から検討する.<BR><BR>【方法】<BR> 本研究ではJOAスコアの手指項目点数が3点の患者16名(年齢68.1 ± 9.8歳)を対象とし,全員が右利きで,本課題を遂行できた.被験者にはペンタブレット(WACOM社製,Intuos3 PTZ-930)上に提示された正弦波図形をデジタルペンでなぞる描画課題を利き手と非利き手で各1回ずつ快適速度にて行い,描画中はデジタルペン以外がタブレットと触れないように指示した.算出した諸量は垂直方向の座標値誤差(以下座標値誤差),筆圧平均値,筆圧変化量,描画時間である.描画課題終了後,10秒テストと握力測定を行い,10秒テストの成績が悪いもしくは10秒テストに左右差なく握力の成績が悪い方を重症,他方を軽症と定義し左重症群と右重症群に分類した.群間における同側肢の比較には対応のないt検定,各群内における利き手と非利き手との比較には対応のあるt検定を用い,有意水準はいずれも5%と設定した.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 研究開始に先立ち,当大学病院臨床研究倫理委員会にて研究計画の承認を得た.その後,全被験者に対して本研究の目的や方法などに関する説明を口頭および書面にて十分に行い,研究に参加することの同意を書面にて得て本研究を実施した.<BR><BR>【結果】<BR> 利き手に対する非利き手の諸量は,筆圧変化量が左重症群では3.34 ± 2.09 kgwに対し4.80 ± 2.78 kgwと,右重症群では,4.78 ± 3.20 kgwに対し7.11 ± 2.36 kgwと有意に大きかった(p = 0.010-0.028).一方,利き手における左重症群に対する右重症群の諸量は,座標値誤差が0.99 ± 0.03に対し1.03 ± 0.03と,描画時間が20.3 ± 0.4秒に対し35.4 ± 2.0秒と有意に大きかった(p = 0.025-0.035).しかし,その他の項目では有意差を認めなかった(p > 0.05).<BR><BR>【考察】<BR> 今回,重症度に関わらず,非利き手側の筆圧変化量が,利き手のそれより有意に大きいことを見出した.これは,先に報告した健常者の結果と一致しており,筆圧変化量が疾患より利き手の影響を強く受けることを示唆する.また,利き手において座標値誤差と描画時間が疾患の影響により有意に増加することを見出した.一般的に,非利き手はリーチ動作,利き手は巧緻動作が得意とされ,巧緻動作を非利き手に行わせるのは難しいと言われている.リーチ動作は肩や肘関節中心の粗大運動,巧緻動作は肩~手関節をほぼ固定して指の微細な運動が中心であると仮定すると,巧緻性の指標である座標値誤差の増加とそれに伴う描画時間の増加が右重症群の利き手で強く生じることは想像に難くない.以上のことから,筆圧変化量は利き手の影響を強く受ける一方,座標値誤差は利き手における頚髄症の影響を強く受けることが明らかとなった.これらの成果を基に,最終的に定量的評価システムの完成へつなげる予定である.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 評価は理学療法士がリハビリテーションを行う上で欠かすことのできない作業である.理学療法士は評価によって患者の全体像を把握し,治療法を取捨選択する.また,治療においては理学療法士を含め複数の職種がチームを組むことが多く,チーム内では患者に関する情報の共有が必要である.我々が目指す定量的な上肢運動機能評価法は,評価データに客観性を与え,リハビリテーションにおける治療プログラム策定や経過の把握,チーム内での情報の共有を容易にすることが期待される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1247-CbPI1247, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548562176
  • NII論文ID
    130005017083
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi1247.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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