デジタル傾斜計を用いた脊椎の矢状面アライメントの測定
説明
【目的】不良姿勢における脊椎の矢状面アライメントは,過度の胸椎後弯や腰椎前弯,平背など,腰椎や胸椎の弯曲が正常から逸脱している.先行研究では,X線画像やデジタル画像解析,スパイナルマウスを用い,脊椎の矢状面アライメントを定量的に評価しているが,これらの方法は,測定機器が高価で,解析が煩雑である.このため,臨床では,視診による定性的な評価が行われることが多い.デジタル傾斜計は,土木建築に用いられる傾斜度を簡便に測定できる安価な機器であり,臨床における定量的な脊椎の矢状面アライメントの測定に活用できる可能性がある.しかし,デジタル傾斜計をアライメント評価に用いた報告は少ない.本研究では,健常若年者を対象にデジタル傾斜計を用いた脊椎の矢状面アライメント測定の有用性を検討した.<BR>【方法】対象は健常若年者155名(男性76名,女性79名),平均年齢20.5±1.9歳であった.デジタル画像解析は,デジタルカメラIXY DIGITAL 2015(Canon社)を用いて,反射マーカーを設置した対象者の側方から立位姿勢を撮影し,解析ソフトScion Image 4.0.3(Scion社)を用いて,デジタル画像から反射マーカー間の角度を解析した.反射マーカー設置部位はC7,Th5,Th11棘突起,大転子側方,上前腸骨棘とし,C7,Th5,Th11棘突起のなす角を胸椎後弯角,Th11棘突起,上前腸骨棘,大転子側方のなす角を腰椎前弯角とした.デジタル傾斜計による測定は,デジタル傾斜計DL-155V(STS社)を用い,C6,7棘突起,Th11,12棘突起,L3,4棘突起にデジタル傾斜計をあて,傾斜度を測定した.また,C6,7棘突起の傾斜度を頸椎傾斜度,Th11,12棘突起の傾斜度を胸椎傾斜度,L3,4棘突起の傾斜度を腰椎傾斜度とし,頸椎傾斜度と胸椎傾斜度の和を胸椎後弯角,胸椎傾斜度と腰椎傾斜度の和を腰椎前弯角とした.測定肢位は,両上肢を体幹前方で組んだ静止立位とした.デジタル傾斜計の測定回数は3回とし,平均値を代表値とした.デジタル傾斜計による頸椎,胸椎,腰椎傾斜度の測定者間級内相関係数は,それぞれ0.91,0.88,0.94であった.統計解析は,SPSS 14.0J for Windows(SPSS Inc.)を用い,各測定結果の関係は,Pearson積率相関分析を用い,危険率5%未満をもって有意とした.<BR>【説明と同意】国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認(承認番号:09-162)を得たのち,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容について説明して同意を得てから調査を行った.<BR>【結果】男性では,デジタル傾斜計による胸椎後弯角は,デジタル画像解析による胸椎後弯角と(r=0.56,p<0.01),デジタル傾斜計による腰椎前弯角は,デジタル画像解析による腰椎前弯角と有意な正の相関があった(r=0.38,p<0.01).一方,女性では,デジタル傾斜計による胸椎後弯角は,デジタル画像解析による胸椎後弯角と有意な正の相関があったが(r=0.66,p<0.01),デジタル傾斜計による腰椎前弯角は,デジタル画像解析による腰椎前弯角と相関がなかった(r=0.05,p=0.67).<BR>【考察】本研究の結果,デジタル傾斜計による胸椎後弯角は,男女ともにデジタル画像解析による胸椎後弯角と有意な正の相関があった.腰椎前弯角は,男性では有意な低い正の相関があったが,女性では相関がなかった.デジタル傾斜計による胸椎後弯角では,デジタル画像解析と類似した指標を用いていたが,デジタル傾斜計による腰椎前弯角では,脊椎棘突起を指標とし,デジタル画像解析では脊椎棘突起,大腿骨および骨盤を指標としていた.測定時,対象者に直立位で立つよう十分配慮して指示したが,女性は,立位姿勢で股関節が内旋しやすいため,大転子のマーカーが前方に変位するなどのバラツキがあった可能性がある.デジタル傾斜計による女性の腰椎前弯角の測定には,指標が類似したX線画像解析との関係などの調査が必要である.本研究の結果から,デジタル傾斜計の測定の信頼性は高く,デジタル傾斜計とデジタル画像解析による胸椎後弯角に相関があったこと,デジタル傾斜計とデジタル画像解析による男性の腰椎前弯角に相関があったことから,デジタル傾斜計は,脊椎の矢状面アライメントの測定機器として有用である可能性が示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】デジタル傾斜計による脊椎の矢状面アライメント測定の信頼性を検討することは,臨床における評価方法を開発する上で重要である.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI1273-CbPI1273, 2011
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548568704
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- NII論文ID
- 130005017109
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可