乳がん術後のリンパ浮腫が上肢機能に及ぼす影響
説明
【目的】<BR> 乳がん術後のリンパ浮腫は,腋窩リンパ節郭清をした同側上肢の約15~20%に発生するとされているが,センチネルリンパ節生検症例においても,重症例を全体の3%に,軽症例を含めると30%の確率で認めるといわれている.<BR> 田尻らは,乳癌術後患者に対し,SF-36を用いたQOLの評価を行い,リンパ浮腫を発症した患者はQOLが低い傾向があったと報告している.しかし,リンパ浮腫の発症と上肢機能障害に関する報告は,われわれが渉猟した範囲ではみられなかった.<BR>今回われわれは,乳癌術後のリンパ浮腫の発症が上肢機能障害に及ぼす影響を調査したので報告する.<BR>【方法】 <BR> 乳癌術後1年以上経過し,再発・転移等のない36例を対象とした.性別は全例女性,調査時年齢は平均52.0歳(38歳~77歳),右17例,左19例であった.術式は非定型的乳房切除術26例,乳房温存術10例,リンパ節郭清範囲は,Level3 10例,Level2 13例,Level1 4例,センチネルリンパ節生検9例であった. <BR> 対象を,上腕または前腕の周径が1.0cm以上患側で増大している浮腫あり群17例(以下,L群),周径差1.0cm未満の浮腫なし群19例(以下,N群)の2群に分類した.術後平均23.9ヵ月(14ヵ月―47ヵ月)時に,(1)年齢,(2)術側,(3)術式,(4)リンパ節郭清範囲,(5)化学療法の有無,(6)肩関節可動域(屈曲,外転,外転位外旋・内旋),(7) BIODEX社製トルクマシン( Multi joint system2PA)を用いた肩関節筋力(屈曲-伸展方向,外転位外旋-内旋方向),(8) Disabilities of the Arm,Shoulder and Hand(以下DASH)について2群間で有意差検定を行った.<BR> 統計学的検定は,年齢,可動域,筋力およびDASHについてはMann-Whitney’s U検定を行い,術側,術式,リンパ節郭清範囲および化学療法の有無についてはχ2検定を行い,危険率5%未満を有意差ありとした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象患者には本研究の趣旨を説明し同意を頂いた.<BR>【結果】<BR> リンパ節郭清範囲は,L群では,Level3 52.9%,Level2 41.8%,Level1 5.9%, N群では,Level3 5.3%,Level2 31.6%,Level1 15.8%でL群はN群より有意にリンパ節郭清範囲が広かった(P<0.05).化学療法施行率は,L群82.4%,N群15.8%で,L群はN群より有意に化学療法を実施している症例が多かった (P<0.05).<BR> DASHでは,総合点でL群8.81±6.94,N群4.71±4.87であり,L群はN群に比較して有意に高値であった(P<0.05).各項目比較では「肩,腕や手に筋力を必要とするか,それらに衝撃のかかるレクレーション活動をする」がL群2.25±1.47,N群1.32±0.58,「腕を自由に動かすレクレーション活動をする」がL群2.00±1.53,N群1.21±0.42,「腕・肩・手の障害のために,自分に自信がないとか使いづらいと思っている」がL群2.06±1.03,N群1.42±0.77であり,上記3項目においてL群はN群より有意に得点が高かった(P<0.05,P<0.05,P<0.05). <BR> 年齢,術側,術式,肩関節可動域,肩関節筋力においては2群間で有意差を認めなかった.<BR>【考察】<BR> Johanssonらは,乳がん術後の軽度から中等度のリンパ浮腫を有する患者に対して実施した運動療法では,運動療法直後の患側上肢の全体積は運動前と比較して有意に増加するが,24時間後には患肢体積の有意な減少がみられたと述べており,リンパ浮腫患者の運動療法は一定の有効性があると思われる.今回の結果から,リンパ節郭清範囲が広く,化学療法を実施している症例に対しては浮腫を発生する確立が高い症例として,早期から適切な理学療法の介入が有用なのではないかと思われた.<BR>また,リンパ浮腫を認めた群は肩関節可動域・筋力においては有意な低下は認めないが,レクレーションに関する項目や,自分に自信がないとか使いづらいと思っているという項目で困難と感じている割合が有意に高いことがわかった.すなわち,リンパ浮腫の患者は上肢の機能低下は少ないが,日常生活上の上肢の使用法や管理法などが分かり難い現状が判明した.原因として,浮腫の予防法のひとつに,患側上肢での激しい運動や重いものを持つことを避けるといった注意点があり,漠然としながらも,日常生活の中に制限を設けるような内容となっていることが一因ではないかと考えられた.今後は上肢機能を保ちながら,レクレーション活動や社会参加で制約をうけないように,理学療法の内容を検討していく必要があると思われた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 乳癌術後リンパ浮腫患者においては,理学療法の介入により,上肢機能を向上し,さらには日常生活活動やレクレーション活動などのQOLを向上させることが可能になるのではないかと思われた.<BR><BR><BR>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), D4P2242-D4P2242, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548634112
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- NII論文ID
- 130004582658
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可