市販の体組成測定器における腹部皮下脂肪厚測定の検討

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抄録

【目的】<BR> 厚生労働省の2008年の調査では,日本における死因の第1位は悪性新生物,第2位は心疾患,第3位は脳血管疾患となっており,心疾患と脳血管疾患が全死因の約30%を占めることになる.理学療法の現場においても,血管病変が原因と思われる脳梗塞や心筋梗塞患者は増大しており,血管病変を引き起こす原因のひとつである血中脂質の異常高値と高い関連性が認められる体内脂肪の蓄積が重要な問題となっている.体脂肪に関する評価では,現在では市販の体重体組成計によって,簡便に体脂肪率や筋肉の割合が測定できるようになっている.さらに,近年では赤外線により皮下脂肪の厚さを測定できるものやバランス能力が測定できるものなど,健康管理に有益な情報が,より詳細に測定できる機器もある.しかしながら,市販の体組成機器で測定された皮下脂肪の厚さがどの程度の妥当性を持つのかを検証した研究はまだ少ない.<BR> 本研究では,市販の体組成計を使用した赤外線と超音波画像による腹部皮下脂肪厚の測定を比較し,結果の検討を行った.<BR>【方法】<BR> 対象者は男子大学生13名(年齢20~21歳,身長175.5±6.4cm,体重66.5±8.7kg,BMI21.4±1.9)であった.体組成はPanasonic社製EW-FA70を使用し,体重,体脂肪率,皮下脂肪率,腹部皮脂厚を測定した.この機器では,体脂肪率,皮下脂肪率は生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis: BIA),皮下脂肪測定は赤外線を用いて,非侵襲に簡便に体組成を測定することができる.また,腹部皮脂厚は本多電子株式会社製超音波画像診断装置HS-2000でも測定を行った.測定は3回ずつ行った.身体活動量(PA)は肢位強度法 (PIPA) を使用して,計算式により,一日のエネルギー消費量を算出した.統計解析は,超音波腹部皮脂厚と赤外線による超音波測定のデータの比較はWilcoxonの符号付順位検定にて検討した.また,機器内での3回の測定間の比較には,同一検者の3試行における一致度(級内相関)を求め,体組成計と超音波皮脂厚計による測定値の信頼性を検証した.体組成とPAの関係は,それぞれの測定値でSpearmanの順位相関係数を求めた.すべての統計解析には,SPSS, Inc.製SPSS ver.17.0 for Windowsを使用した.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者は研究に参加しない自由を有し,研究の途中であってもその意思によって研究の中断・中止も可能であること,不参加あるいは中断した場合も対象者自身に不利益を被ることがないこと,研究データは管理には十分注意し,研究以外の目的では使用しないことを説明した.また,個人情報は,研究終了後は安全な方法で速やかに破棄した.以上のことは,書面にも記載して説明し,同意が得られれば同意書の署名を得た. <BR>【結果】<BR> 腹部皮脂厚の3施行の中央値と四分位範囲は,体組成計で10.2mm,6.8mm,超音波画像で8.4mm,2.4mmであった.級内相関は,体組成計による腹部皮脂厚で0.850(p<0.01),超音波画像によるもので0.817(p<0.01)であった.Wilcoxonの符号付順位検定では,同一被検者の体組成計と超音波による腹部皮脂厚の間で,p=0.028となり,有意差が認められた.身体活動量は2047.4±273.3kcalであった.Spearmanの順位相関係数は,体脂肪率と体組成計による腹部皮脂厚(r=0.688,p=0.013),超音波による腹部皮脂厚(r=0.577,p=0.049),PA(r=0.697,p=0.012)で,有意な相関が認められた.<BR>【考察】<BR> 腹部皮脂厚の検者内級内相関は,体組成計,超音波画像の双方とも高い相関を認め,これらの測定機器による測定値の信頼性は十分に高いものであったと考えられる.しかしながら,双方の腹部皮脂厚の結果には有意差が認められた.体組成のゴールドスタンダードはCTなどを使用した画像診断法であるが,超音波画像も実際の脂肪の厚さを画像上で測定できる点から信頼性の高い測定法とされている.本研究の結果は,市販の体組成計による皮脂厚測定では,測定方法を今後も検討していく必要があるものと考えられる.更なる研究により,高齢者や障害者でも自宅などで簡易かつ一定の精度が保証された体組成測定ができることが望まれる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 脂質代謝異常による動脈硬化症などの血管病変の増加は理学療法の対象となる患者を増大している.自宅や福祉施設など専門家がいなくても最小限の指導で市販の体組成測定機器を利用し、自己測定能力を高める支援をすることで健康管理できる環境の構築が必要となっている.本法を応用し、高齢者,障害者における新技術を応用した体脂肪等の測定機器の特性や特徴を調べることで,いつでもどこでも健康管理できる環境の構築に寄与すると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D4P2246-D4P2246, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548635904
  • NII論文ID
    130004582662
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d4p2246.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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