生活環境の違いにおける高齢者の健康状態・身体特性の傾向

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  • ─第1報 市街地、山間部、沿岸部に在住の65歳以上の女性での検討─

抄録

【はじめに、目的】 高齢者の身体機能に与える影響因子は,生活習慣(運動・食事など)と生活環境であることは周知の事実である.その中でも,生活環境要因,特に生活地域や標高に着目した報告は少なく,長年の生活地域や標高により変化する身体特性および機能の特徴は不明である.今回,65歳以上の高齢の女性を対象に,市街地,山間部,沿岸部の環境因子に分け身体特性および機能測定を行い若干の知見を得たので報告する.【方法】 対象は平成17年から平成22年の過去5年間の間に行われた高知県西部における地域主催のイベントに参加された65歳以上の女性61名(平均年齢73.3±6.6歳)である.対象者は生活圏の環境を選定するため住所から緯度経度を確認,その後標高を検出し気象庁の地域区分を参考に分類した.具体的には海抜0~10mの平野部で住宅が密集している地域を市街地,海抜0~10mで海岸線の近隣(37km圏内)の地域を沿岸部,海抜10m以上の山に囲まれ,人が定住し,活動の多い地域を山間部として分類した.測定項目としては年齢,身長,体重,体脂肪などの身体特性,握力,膝伸展筋力(以下:WBI),Functional reach test(以下:FRT)の身体機能評価を実施した.また,アンケート調査(車の使用,生活様式,健康への関心などの6個の質問)を紙面にて実施した.すべての項目に対して検査・解答可能であった症例を採用した. 統計学的手法は,身体機能の各項目間の有意差の有無に関しては1元配置分析を実施した.アンケート調査の有意差の有無に関してはクラスカル・ワーリス検定を実施した.各身体機能評とアンケート結果の相関関係に関しては,ピアソンの相関係数を用いた.尚,統計学的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言の精神に則り実施し,臨床研究に関する倫理指針を遵守したものである.また対象者には測定に際し,本研究の意図や目的などを説明し同意を得た.【結果】 対象群は市街地42名(平均年齢72.5±6.2歳),山間部10名(平均年齢77.7±8.2歳)沿岸部9名(平均年齢72.3±1.7歳)である.身体機能評価の結果は,市街地,山間部,沿岸部の順にそれぞれ,体脂肪(%)は31.1±5.9,35.6±2.9,35.5±4.7,BMI(%)は22.1±2.9,24.9±2.6,25.0±2.6,握力(kg)は21.8±4.4,20.2±5.0,21.4±4.4,WBIは0.42±0.15,0.38±0.15,0.42±0.14,FRT(cm)は29.9±6.5,21.5±7.3,30.4±7.8であった.身体特徴の項目では,体重は,市街地と沿岸部の間で有意差を認め市街地が軽く,BMIは,市街地と山間部,市街地と沿岸部の間に有意差を認め市街が低い結果であった.身体機能の項目では,FRTは市街地と山間部,山間部と沿岸部の間で有意差を認め,山間部が短かった.アンケート調査の結果は,日常で車を使用している者は29名,1週間で20分以上の運動を実施している回数では,週1回以上者は38名,週3回以上では15名であった.生活様式に対する質問で和式と様式の比率(和式:様式)は,寝具では34:27,トイレでは6:55,食卓では13:48であった.また転倒経験に対する質問では13名の者が転倒経験を有していた.その他の項目に関しては,いずれも有意差を認めなかった.【考察】 生活環境と身体特徴および機能について比較検討した. 市街地は体重が軽く,BMIも少なく,その数値は22であり他の群に比べより健康と考えられる.山間部は,FRTが他の地域より有意に短く,また,先行研究の平均値に対しFRT,握力,膝伸展筋力が低値であった.これら身体機能は,年齢的因子により減少することを鑑みても,山間部はアンケート結果項目の運動習慣には有意差を認めないが,他の地域に比べて少ない傾向があったことから,関与している可能性が示唆された.また先行研究と異なり市街地の身体機能が高かった.これは,土地柄や文化など地域性を示唆するもので,臨床的にも考慮すべき点と考える. 沿岸部は,BMIが高地であった.BMIは生活習慣の様々な因子を反映する. 運動習慣や日常での車の使用状況などで有意差を認めず,食生活など因子も今後検討する必要性を感じる.以上の様に身体特徴および機能に対し生活環境が影響を及ぼしている事が示唆された.今後の課題として,市街地に比べて山間部,沿岸部の症例数が少ない事や食生活などの因子を含めた調査の必要性があげられる.加えて,他の地域との身体特性や運動状況の差を確認することで,地域にあった運動療法・指導の立案に役立てていけると考える.【理学療法学研究としての意義】 生活環境(地形や標高)によって異なる身体特徴および機能を考慮し,その 生活環境における身体特徴や機能低下予測や介護予防作を考えることが可能と思われる.その結果,より生活に根付いた運動指導,介護予防の展開や介助量の軽減が可能になるのではないかと推測される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Eb1242-Eb1242, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548682624
  • NII論文ID
    130004693538
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.eb1242.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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