段階的な吸気抵抗負荷法における吸気筋活動特性

DOI
  • 石井 伸尚
    茨城県立中央病院 リハビリテーション技術科 茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科
  • 毛利 央重
    茨城県立医療大学 理学療法学科
  • 冨田 和秀
    茨城県立医療大学 理学療法学科
  • 立元 寿幸
    東京医科大学茨城医療センター リハビリテーション部 茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科
  • 大瀬 寛高
    茨城県立医療大学付属病院 診療部
  • 居村 茂幸
    茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科

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抄録

【はじめに、目的】呼吸リハビリテーションにおける吸気筋トレーニングは、最大吸気口腔内圧や吸気筋耐久力、呼吸困難、運動耐容能の改善が先行研究で報告されているものの、その効果に関しては一定ではない。また、吸気筋トレーニングのトレーニング方法として代表的な吸気抵抗負荷法は、負荷圧の違いとその効果について検討されてきたが、負荷圧の変化に伴い賦活される筋活動の特性については明らかでなく、吸気筋トレーニングが十分なエビデンスを得ていない一因とも考えられる。そこで今回吸気抵抗負荷法による吸気筋トレーニング中の筋活動特性を明らかにし、臨床での基礎的知見を得ることを目的とした。【方法】呼吸器疾患の既往のない健常成人男性16名を研究協力者とした。運動課題は吸気抵抗負荷法とし、Threshold®を使用し最大吸気口腔内圧(以下PImax)の20%, 30%, 40%, 50%の4段階の負荷圧でそれぞれ5呼吸を測定した。4秒間の吸気とそれに続く4秒間の呼気をもって1呼吸周期とし、4秒間で最大吸気位に達するよう一定の速度での吸気を行うよう指示した。運動課題中の筋活動電位の計測対象筋は横隔膜、胸鎖乳突筋、斜角筋とし、すべて右側で計測した。本研究では、吸気の開始と終了を同定するため、差圧トランデューサー(PRESSURE TRANDUCER TP-604T,日本光電)を介してアンプ(PRESSURE AMPLIFIER PA501, クローネ)で増幅し、換気量と同期させながら吸気筋群の表面筋電図を測定する装置を用いた。筋電図の測定装置は、棒型でプレアンプ内蔵型の能動電極(The Bagnoli-8 EMG System、DELSYS、1×10mm、Ag)を用いて導出した。電極間距離は10mm であった。筋電図信号は電極内蔵の増幅器で増幅後(帯域通過フィルタ20-450Hz)、A/D 変換機(PowerLab/16SP、 ADI)を介して1kHz でパーソナルコンピュータに記録した。各々の筋電図信号ならびに吸気圧は、PC上の時系列解析アプリケーションソフト(Chart5.5.6、ADI)を用いて、サンプリング周波数1KHzで同期させて記録した。データ解析は筋電図信号10msec毎の交流実効値(root mean square;RMS)により平滑化し、最大吸気口腔内圧時のRMSをMVCとして正規化した。また、時間軸を100ポイントとして再構築し、吸気開始から終了までの運動区間を4区間に分け分析した。各運動課題における筋活動量は二元配置分散分析を用いて比較検討した。統計処理はIBM SPSS statistics ver.20を用いて、p<0.05をもって有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】茨城県立医療大学倫理委員会にて承認を得て実施した(承認番号: 482)。全ての研究協力者には本研究の目的と内容を説明し書面にて同意を得た。【結果】運動課題のPImax20%から50%のすべての課題で横隔膜と呼吸補助筋である胸鎖乳突筋、斜角筋の活動が吸気開始時から終了時までみられた。負荷圧がPImax20%、30%、40%、50%へと段階的に変化するに従い、横隔膜では23±13%RMS、26±14%RMS、29±14%RMS、37±18%RMS、胸鎖乳突筋では18±21%RMS、25±25%RMS、31±22%RMS、35±27%RMS、斜角筋では20±26%RMS、21±28%RMS、27±31%RMS、27±27%RMSと負荷圧の上昇にともない筋活動量の増加がみられた。運動課題全体における筋活動量の比較ではPImax20%と50%の間で有意な差を認めた。経時的な変化としてはPImax20%、30%、40%の負荷では筋活動量の違いはあるものの、ほぼ同様の活動パターンを示し、吸気の後期から終期に活動のピークがみられた。PImax50%では横隔膜、斜角筋はその他の運動課題とほぼ同様の活動パターンを示したものの、胸鎖乳突筋に関しては吸気の初期から高い活動がみられた。【考察】今回、吸気抵抗負荷法での吸気筋トレーニングにおける負荷圧の変化に伴う筋活動の変化を検討した。負荷圧の上昇に伴い横隔膜と呼吸補助筋の活動は段階的に増加する傾向が見られた。このことから、吸気抵抗負荷法における負荷圧の上昇は横隔膜だけでなく、呼吸補助筋群の活動も同様に促す可能性が示唆された。また、運動課題中の筋活動パターンは横隔膜、胸鎖乳突筋、斜角筋とも吸気の後期から終期に活動のピークをむかえ、このことは高肺気量位で胸鎖乳突筋、斜角筋の活動がピークを迎えるという先行研究の内容と一致し、今回横隔膜でも同様の活動パターンを示すことが確認できた。さらに、PImax50%では胸鎖乳突筋の活動が初期から高い傾向が見られ、肺気量位の変化よりも負荷圧の変化に依存した活動性の有ることが確認できた。【理学療法学研究としての意義】吸気筋トレーニングは賦活される筋活動特性について理解したうえで実施する必要があり、本研究はその基礎的研究データとなる。今後は臨床において呼吸器疾患などへの応用を検討する。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100716-48100716, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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