臨床実習におけるケースノートの効果の検討

  • 加藤 研太郎
    上尾中央医療専門学校 教育部 理学療法学科
  • 平林 弦大
    上尾中央医療専門学校 教育部 理学療法学科
  • 高島 恵
    上尾中央医療専門学校 教育部 理学療法学科

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【はじめに、目的】理学療法士の臨床実習において、症例レポートの作成は養成教育の開始当初より伝統的に行われてきた。しかし近年、対象者を通じた技術的な経験が重視され、症例レポートを廃止する臨床実習が行われるようになってきた。この背景としては、医師養成で導入されているクリニカルクラークシップが注目されていることが考えられる。理学療法士の臨床実習においても導入する養成校が増えてきている。クリニカルクラークシップでは、学生も役割を持って診療参加し、対象者と関わることに重点が置かれているが、対象者と関わることが技術的な関わりに変換されてしまい、技術的な経験に比重が置かれ、技術を提供するに至るまでの思考過程が軽視されかねない。本校では技術的な向上と同程度に思考過程も重要と考えているため、カルテ形式で記載内容は思考過程を詳細に書くケースノートの作成を義務付けている。甲田(2012)は症例レポートを書いても臨床能力は挙がらないとしているが、何を目的にした場合に無効なのかが明確にされていない。そこで今回、学生にケースノートを書く目的とその目的を達成するためにケースノートは有効であったかについてアンケート調査を実施し、実習成績との関係も踏まえ考察したことにより若干の知見を得たので報告する。【方法】対象は本校に在籍している3年生の31名とした。方法はアンケート調査とし、時期は最後の臨床実習が終了後に実施した。アンケート内容は、ケースノートを作成する目的として最も適していると思う理由(以下、目的)を選択肢の中から1つ選択させた。そして、その目的を達成するのにケースノートは有効であったか(以下、有効性)を、「はい」「いいえ」「どちらでもない」から選択させた。さらにいずれの有効性の場合でもその理由を記載させた。統計処理はSPSS.Ver16を用い、目的と有効性に関してはχ二乗検定にて選択されたものに偏りがないか検定した。さらに、目的と実習成績に相関関係がないか、Cramerの連関係数を用いて有意水準5%未満にて検定した。有効性についての自由記載はKJ法にてカテゴリー化した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は学内運営会議の承認のもと実施した。対象者については、口頭にて研究目的とデータ処理についての扱いを十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】目的においては、「思考の可視化」を選択した学生が有意に多く(P<0.01)、次に「情報整理」が多かった。有効性については「はい」と答えた学生が有意に多かった(P<0.01)。目的と実習成績に相関は見られなかった。有効性についての自由記載は「はい」と回答したものをカテゴリー化し、項目数が多い順に1.振り返り、2.情報整理、3.指導者との合意に分けられた。【考察】ケースノートの作成目的として、思考の可視化が有意に多く、目的達成のために有効と答えた学生が多かった。目的と実習成績に相関関係はなく、自由記載では1.振り返りが一番多い結果となった。以上より思考を可視化し、情報を整理しながら振り返えることにおいてケースノートは有効であると考えられる。その理由として、最近の学生の傾向が影響していると推測する。苅谷(2002)は児童の学力低下を指摘している。さらに全国学力学習状況調査(2012)においても、結果を整理分析し、解釈・考察し説明する力や自分の考えを書く力の低下が指摘されている。このことから、何らかの形で思考を可視化し、情報を決められた形で分類しながらでないと結果を読み取り、統合解釈することができないためだと考えられる。さらに実習成績と目的において相関がなかったことから、成績の上位・下位に関係なく、全体の傾向ということが伺える。学力が低下している状況の中、技術偏重に傾くことは、ますます将来の理学療法士の質の低下が危惧される。しかしながら、実習において平均睡眠時間が4時間という中でケースノートが負担となっていることも事実である。坂本(1993)は症例レポートに関して症例理解のサポートのためとし、田中(2011)はレジメ程度を推奨している。以上のことから、文章化することが難しい学生が増えてくるため、概念図やフローチャートを用いたケースノートの検討が必要になると考える。今後の課題として、臨床能力の定義づけとそれに対するケースノートの効果の検証が必要になる。【理学療法学研究としての意義】適切な技術を習得することは必須であるが、適切な技術を提供するために対象者の抱えている問題点を整理し、明確化するための思考過程が前提になっていると考える。そのための思考を可視化するケースノートの効果が確認でき、今後の臨床実習の在り方を検討する一助になったと考える。

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