THA・TKA術後の深部静脈血栓症合併に影響を与える因子の検討
Description
【目的】<BR>2004年の肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症ガイドライン作成や抗凝固薬の予防的投与で,整形外科患者の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の予防がなされるようになり,かつての予期せぬ疾患から予防すべき疾患へと劇的に変化している.特に人工股関節置換術(Total hip arthroplasty:THA)や人工膝関節置換術(Total knee arthroplasty:TKA)の術後においてDVTは高率に発生し,日本整形外科学会が発表したDVTの予防ガイドラインにおいても高リスク群に分類されている.すなわちTHA・TKA術後の周術期からリハビリテーションを行う回復期までは,DVT発症リスクの評価および対策は重要である.今回,当院におけるTHA・TKA術後のDVT合併に影響を与える因子について検討した.<BR>【方法】<BR>対象は2009年4月から2010年9月までに当院でTHAおよびTKA手術が施行され,自宅退院した65例のうち,術後合併症で安静が指示された症例と術後患肢全荷重が遅れた症例を除外した63例.THAは男性2例,女性24例,平均年齢65.9歳(36歳から81歳),疾患は変形性股関節症が23例,大腿骨骨頭壊死が3例.TKAは男性4例,女性33例,平均年齢74.3歳(55歳から86歳),疾患は変形性膝関節症が36例,大腿骨骨壊死が1例.抗凝固療法は全症例に対して術前評価に応じて整形外科医の指示で行われた.弾性ストッキングは全症例に対して入院中は着用させ,間欠的空気圧迫法は手術直後から1週間前後,ベッド上では常時装着とした.リハビリテーションは術後翌日から患肢全荷重が許可され,整形外科医から依頼後に各症例に合わせて可及的に進めていった.DVTの評価は術後1週間前後に形成外科を受診し,下肢静脈超音波で検査した.検討項目は年齢,Body mass index(BMI),術中の出血量,手術時間,術後3日後・1週間後・2週間後のDダイマー値,入院から手術までの待機日数,術後初回車椅子乗車までの日数,術後初回歩行までの日数について後方視的に検討した.統計処理はDVTあり群とDVTなし群での各検討項目における比較を単変量解析としてunpaired t-testを用いた.さらに,単変量解析で有意差を認めた項目を説明変数に投入し,DVTの有無を目的変数としたロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.統計ソフトはDr.SPSSIIfor windowsを使用し,いずれの検定も危険率5%とした.<BR>【説明と同意】<BR>整形外科医から手術前に手術後合併症のDVTと,本研究の趣旨と内容に関して十分に説明をおこない同意を得た.<BR>【結果】<BR>DVTはTHA術後に23.1%(26例中6例),TKA術後に45.9%(37例中17例)の計36.5%(63例中23例)に認めた.その中でヒラメ筋静脈に血栓を認めたのは95.7%(23例中22例)であった.各群の検討項目では在院日数(DVTあり群37.4±12.5日,DVTなし群30.2日±6.5日)と術後初回歩行までの日数(DVTあり群7.1±5.9日,DVTなし群4.7±1.5日)に有意差(p<0.05)を認め,他の検討項目では有意差は認められなかった.DVTの有無を目的変数としたロジスティック回帰分析の結果,術後初回歩行までの日数(オッズ比:1.402,95%信頼区間:1.023‐1.924,p<0.05)が抽出された.<BR>【考察】<BR>本研究からTHA・TKA術後のDVT合併に強く影響を与える因子は術後初回歩行までの日数であった.術後に歩行開始が遅延する因子としては疼痛コントロール不良,理学療法開始の遅れ,早期歩行に対する患者や医療スタッフの認識不足が関連し,静脈弁が不完全で吻合部が多く,血流うっ滞が増悪しやすいヒラメ筋静脈で高頻度にDVTが発生したと考えられる.筋肉内静脈のヒラメ筋静脈は抗重力筋のヒラメ筋内を走行するため,歩行できない環境に置かれた場合にDVTの初期発生源となることが示唆された.この対策として医療スタッフのDVT予防に対する意識と連携を高め,術前より患者に対してDVTについて繰り返し指導することが重要で,可能な限り早期歩行練習を開始することによってヒラメ筋静脈の血流うっ滞改善を図る必要があると考えている.今後,さらに症例数を増やして整形外科術後のDVT合併の関連因子,歩行開始が遅れる因子,歩行開始が遅れた症例に対するDVT合併の対応策などについて継続して検討していきたい.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究からTHA・TKA術後DVT合併に影響する因子として術後初回歩行開始までの日数という結果が得られたことは,DVT合併予防として早期歩行開始の重要性が再確認され,患者指導や医療スタッフ連携強化にも有益な研究であると考える.
Journal
-
- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
-
Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2010 (0), CbPI2196-CbPI2196, 2011
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
- Tweet
Details 詳細情報について
-
- CRID
- 1390282680548865664
-
- NII Article ID
- 130005017173
-
- Text Lang
- ja
-
- Data Source
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- Abstract License Flag
- Disallowed