大学サッカー選手の足部・足関節スポーツ傷害に対する足部アーチ保持筋力トレーニングの効果
Description
【目的】<BR> サッカー競技において、足関節や足部の外傷は発生頻度の高い外傷とされている。また、足関節や足部の傷害発生においては、足部アーチとの関連性も認められると報告されている。そこで今回、スポーツ傷害の予防を実施していくにあたって、足部アーチの保持に関与する筋のトレーニングの効果を検証することを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象は測定時に運動器疾患のない大学サッカー選手30名(平均身長175.5±6.8cm、平均体重68.4±6.6kg、平均年齢20.1±0.3歳)とした。全ての対象者について、身体組成、足趾把持筋力、足アーチ高率測定、10m全力歩行、前方へのファンクショナルリーチテスト、最大1歩幅、閉眼片脚立位保持時間を検査項目として測定した。足趾把持筋力、10m全力歩行の順で最も近似した値の者でペアを組み、各ペアにおいて学籍番号の小さい方をトレーニング群、大きい方をコントロール群として2群に割り付けした。トレーニング群には定期的に足部アーチ保持筋力トレーニングを実施し、コントロール群は実施しなかった。1年後に両群ともすべての項目について再計測するとともに、1年間のスポーツ傷害の調査を行った。調査したスポーツ傷害は、サッカー競技中に発生し、指定の病院を受診させ、2日以上練習に復帰できなかったものとした。トレーニング群の足部アーチ保持筋力トレーニングは6種類の運動を、まず週に3回、3ヶ月間実施し、以降週2回実施した。内容は(1)足趾でのタオルギャザー練習、(2)両足部を平行に開いたムカデ歩き(足を平行にして素足で立ち、足趾で床をたぐるようにして進むように指示。)、(3)両足部を「ハの字」に開いたムカデ歩き(足を「ハの字」にしてムカデ歩きを指示。)、(4)ゴムボールを握って離す繰り返し運動、(5)ゴムチューブを用いた足関節内返し運動、(6)ゴムチューブを用いた足関節外返し運動である。トレーニング群とコントロール群それぞれの各検査項目の訓練前後の比較は対応のあるt検定、トレーニング群とコントロール群のベースラインと1年後の検査項目の比較は対応のないt検定、発生したスポーツ傷害発生率(1000player-hour当たりの傷害発生数)の比較にはχ2検定を行った。統計的な有意差を5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本調査は、ヘルシンキ宣言に則りチームにおけるスタッフ・選手に説明し同意を得て行った。<BR>【結果】<BR> トレーニング群の1年後においては、足趾把持筋力、最大1歩幅、閉眼片脚立位保持時間が有意に増加した(p<0.05)。その他の項目においては有意な差は認められなかった。トレーニング群の足関節捻挫の発生率は0.06件/1000player-hours、コントロール群は0.33件/1000player-hoursで、トレーニング群では有意に低かった(p<0.05)。その他の傷害においては有意な差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 足部アーチ保持筋力トレーニングにより、足関節捻挫の発生率低下、運動機能や動的バランスの改善が導かれた。今回の足部アーチ保持筋力トレーニングは、足趾把持筋群と足関節内返し・外返し筋群に対してのトレーニングに分けられる。足趾把持機能の向上により、足底部(母趾球、小趾球、踵部)の支持基底に対し、足趾機能の関与が増大し、姿勢制御時の機能的支持面の拡大につながったこと、さらに足趾が体重支持に関与することで姿勢制御の感覚器(情報収集機能)としての足底(特に母趾底部)のメカノレセプターが賦活されたことにより姿勢制御能やステップ反応・踏み直り反応の改善が得られたと推測される。また、足関節の内返し・外返し運動により、後脛骨筋と長腓骨筋がともに活動性を増したことが予測される。後脛骨筋と長腓骨筋は作用し合って横アーチと内側縦アーチを支持する機能的な「スリング」を形成し、足アーチの保持に関与する。足趾把持筋力向上とともに足アーチの安定性の向上に関与したのではないかと考えられた。さらに、足部アーチ保持筋力トレーニングにより足底メカノレセプターが賦活し、足・膝関節周囲筋の同時収縮が促通されることによっても動的バランス能力の改善が得られたと考えられた。そうしたことから、サッカー競技中の転倒や接触プレー時の安定性、ジャンプ着地時の安定性が向上し足関節捻挫の発生率に影響を与えたのではないかと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 近年、スポーツ傷害の予防や再発防止の取り組みが積極的に行われている。今回、我々が行った足部アーチ保持筋力検査とそのトレーニングは簡便に実施することができるものであった。また、足関節捻挫の発生との関連から足部アーチ保持筋力検査とトレーニングの有用性を示すことができた。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2010 (0), CbPI1325-CbPI1325, 2011
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548870656
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- NII Article ID
- 130005017161
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed