成長期内側型投球障害肘の身体的特性

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タイトル別名
  • 特に内側側副靭帯付着部骨軟骨障害例

抄録

【目的】成長期投球障害肘では内側型の障害が最も多く認められ、少年野球では約20%に出現するといわれている。本病態に対する治療の原則は投球中止を中心とした保存的治療であり、辻野らは、2-3週間の投球中止で疼痛が消失する例が多いと報告している。しかし相当期間の投球中止によってもレントゲン上,骨端線の離開が減少しているわけではなく、投球動作による肘への過負荷を引き起こす要因を解決しなくては,疼痛の再発が危惧される。そこで本研究では、成長期内側型投球障害肘の中でも内側側副靭帯(以下MCL)の牽引力によって生じたMCL付着部骨軟骨障害例に限定し、身体運動機能評価を行い、投球障害肘の発生予防につながる因子について検討したので報告する。<BR><BR>【方法】当院整形外科医師が臨床所見および単純X線撮影像にてMCL付着部骨軟骨障害と診断し、演者ら2名の理学療法士によってリハビリテーションが行われた40例40肘を対象とした。性別は、男性39例、女性1例、患側は全例投球側で、受診時年齢は平均12.6歳±1.58(9~16歳)であった。調査項目は、初診時の視診にて、1.肩甲骨位置(立位での肩甲骨下角位置を非投球側と比較)2.背臥位での肩関節内旋可動域制限(3rd plane)の有無、3.仰臥位での股関節内旋可動域制限の有無、4.骨盤アライメント(Gajdosicらのpelvic testにならい立位姿勢における上前腸骨棘と上後腸骨棘の高位差3横指を基準とし、それに満たない場合を骨盤後傾位とした)。<BR><BR>【説明と同意】患者および保護者には本研究の趣旨と測定方法、また患者の不利益にならないことを十分に説明し、同意を得たものを対象とし、当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化に配慮してデータを利用した。<BR><BR>【結果】肩甲骨位置異常は、38例(95%)に認め、非投球側と比較し、挙上位13例(32.5%)、挙上+外転位1例(2.5%)、下制位17例(42.5%)、下制+外転位5例(12.5%)、外転位1例(2.5%)、内転位1例(2.5%)であった。肩関節内旋可動域制限は、30例(75%)、股関節内旋可動域制限は33例(82.5%)に認めた。ステップ脚の股関節内旋可動域が優位に低下していたのは、2例(5%)のみであった。骨盤アライメントでは、後傾位を34例(85%)に観察した。<BR><BR>【考察】対照群がないため相対的な評価は不能であるが、今回の結果よりMCL付着部骨軟骨障害例の身体特性として、肩甲骨位置異常、股関節の可動域制限および骨盤後傾を認める例が多いことが判明した。近らは骨盤後傾、後方重心は、Take back時に肩関節の水平過外転を生じさると報告している。また、中溝らは肩関節の水平外転が大きいと肘下がりを呈するとしている。この肘下がりの投球動作はcocking期において肘への外反ストレスを生じさせ、肘内側側副靭帯への伸張ストレス、ひいては上腕骨内側上顆への牽引ストレスを増強すると予想される。そのため、身体機能不全が投球動作の乱れを引き起こし、非効率的な投球動作を繰り返すことがMCL付着部骨軟骨障害を生じさせる一因となっていることが示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】成長期内側型投球障害肘、特にMCL付着部骨軟骨障害例の治療および再発予防に際しては肩甲骨・骨盤のアライメントおよび、肩・股関節の可動域制限に対するアプローチが必要であると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), CbPI2252-CbPI2252, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548882816
  • NII論文ID
    130005017229
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.cbpi2252.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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