膝過伸展障害による人工膝関節再置換術後の理学療法

【目的】<BR>人工膝関節全置換術（以下、TKA）後の過伸展の発生はまれであり、理学療法に関する報告は極めて少ない。今回、TKA後徐々に膝過伸展を生じ、術後1年4ヶ月で再置換を余儀なくされた症例を経験したので理学療法と経過を報告する。<BR>【方法】<BR>症例は70代の女性で平成20年2月、変形性膝関節症により他院でTKAを施行した。初回手術情報では人工関節はStryker社NRG（後十字靱帯切除型、以下PS型）、インサートは12mmを用い、手術中の軟部組織バランスは良好であった。術後は疼痛のため膝をロックして歩行していた。術後10ヶ月で過伸展5度、術後1年1ヶ月で10度、1年4ヶ月で15度と徐々に過伸展が増強し平成21年6月に再置換となった。当院での再置換手術時の所見は、大腿骨・脛骨コンポーネントのゆるみはなかったが、インサートはポスト前方に磨耗がみられた。磨耗したインサートを抜去し、18mmインサートに変更（前回＋6mm）した。 術後理学療法は、関節可動域運動、筋力増強運動、テーピングを巻いての歩行練習、膝軽度屈曲位での荷重練習を行った。伸展可動域運動は、伸展制限を生じさせるため積極的には行わず、常に20～30度屈曲位を保つようにした。筋力増強運動は、膝ロック改善のため立位にて軽度膝屈曲位のスクワットを中心に行った。歩行練習は完全伸展を防止するためにスパイラルテープを施して行った。歩行時のテーピングは術後3ヶ月間継続した。なお、General Joint Laxityテストでは肩・肘・膝関節において陽性であった。<BR>【説明と同意】<BR>個人が特定されないよう配慮する旨を説明し、発表に対する同意を得た。<BR>【結果】<BR>再置換術前評価では、関節可動域は、屈曲120度、伸展 +15度（非術側+5度）であった。膝伸展筋力（μ‐tas）は術側18.63Nm、非術側29.97Nmであった。階段昇降は非術側を軸とした揃え型であった。術後評価は2週、4週、6週、12週に実施した。伸展角度、膝伸展筋力、膝屈曲筋力の推移はそれぞれ、伸展角度は0、0、0、－3、膝伸展筋力は6.2、15.4、16.2、23.5、膝屈曲筋力は15.4、15.7、13.2、18.6 （術側のみ記載）であった。屈曲角度は術後12週で120度に達した。術後12週の時点で過伸展歩行は見られず、階段昇降では昇段が交互型で可能となった。<BR>【考察】<BR>PS型人工膝関節は後十字靱帯（以下、PCL）を切除するため、PCLの機能が残存している症例が適応となる。PS型の特徴としてポスト－カムを有し、これがPCLの役割をしており脛骨後方移動を防いでいる。この機構により膝屈曲時のrollbackが誘導されるため術後可動域が良好であると言われている。しかし、膝を過伸展するとポスト－カムのAnterior Impimgementが起こり、その結果ポストが破損し、再置換へとつながる可能性が高くなるといえる。Li.Gらによると、死体膝7膝にPS型TKAを行い、9度過伸展をしたところ、ポストに252.4±173Nの力がかかり、その結果、Anterior impingementによるポリエチレンの摩耗やポストの破損が起こると報告している。我々の症例においても、この報告を裏付けるものになった。今回の症例において過伸展を改善できたことが手術による効果か理学療法による効果かは定かではないが、理学療法において過伸展を防止する対策は重要であると考えられる。術前からの過伸展、膝ロックした歩行に注意して観察し、術後過伸展がみられるようであれば、常に膝軽度屈曲位を保つとともに屈曲位での荷重練習および歩行練習を行うべきであると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>ポスト－カムを有するPS型TKAでは膝の過伸展によってanterior impingementが起こり、ポストの磨耗や破損の原因となる。我々理学療法士が過伸展を予防または早期発見し、適切に対処することで再置換となる症例を減らすことができる。