人工股関節全置換術のアプローチ法の違いによる手術前後の身体機能の変化について

  • 中野 克己
    埼玉県総合リハビリテーションセンター理学療法科
  • 松嵜 洋人
    埼玉県総合リハビリテーションセンター理学療法科

Bibliographic Information

Other Title
  • 最小侵襲手技(MIS)における、後方アプローチ法と前外側アプローチ法との比較

Description

【目的】<BR> 当センターでは平成21年3月まで、最小侵襲手技(MIS)による人工股関節全置換術後方アプローチ法(以下、後方THA)が多く行われてきたが、4月からは、MISによる前外側アプローチ法(以下、前外側THA)に変更となった。このアプローチ法は患者への負担が少なく、かつ股関節脱臼の危険性を大幅に軽減させた。本研究の目的は、これらアプローチ法の変更に伴う患者の身体機能の変化を把握することにより、入院患者が在宅復帰をするにあたって、より効果的な理学療法を提供するための指針を得ることにある。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は、当センターにおいて、平成20年3月4日から平成21年3月17日までに後方THAを受けた31例(男2例、女29例、平均62.3±10.1歳、手術側右19例・左12例)、及び平成21年4月21日から平成21年9月15日までに前方THAを受けた23例(男1例、女22例、平均66.6±10.7歳、手術側右5例・左18例)である。<BR>方法1(各アプローチ法における、手術前から退院時に至る身体機能の変化を把握する)<BR>手術側の1)股関節の関節可動域a.屈曲、b.内転、c.内旋、d.外転、2)下肢の周経e.膝関節裂隙~近位10 cm(以下、大腿10)、f.下腿最大、3)g.10m歩行速度の計7項目を調べ、その後、術前と退院時の差を求めた。また、手術日から練習終了日までの日数(以下、練習日数)も記録した。<BR>方法2(後方THAと前外側THAの身体機能に及ぼす影響を比較する)<BR>方法1で得られた値を用いて、後方THAと前外側THAの2群間において、まず、a.~g.の項目毎に練習日数を共変量とした共分散分析を実施(危険率5%)し、その結果を踏まえた上で、同様に各術式間におけるt検定を行った(危険率5%)。<BR><BR>【説明と同意】<BR> カルテより入手した情報はすべて数値化され、患者を特定する情報はない。なお当センター倫理委員会にて承認済である (承認番号H21-4)。<BR><BR>【結果】<BR> 結果1(各アプローチ法における、手術前から退院時に至る身体機能の変化)<BR>a.~g.の7項目における各値の差は、後方THA、前側方THAの順で、1)股関節a.屈曲10.3±17.7 °,8.5±16.4 °、b.内転-8.9±8.7 °,0.2±6.4 °、c.内旋-5.8±9.5 °,10.5±16.3 °、d.外転6.8±7.1 °,13.0±11.0 °、e.大腿10 -0.1±1.3 cm,-1.5±1.6 cm、f.下腿最大-0.1±1.0 cm,-1.7±1.3 cm、g.歩行速度-1.6±7.4 秒,-0.1±6.7 秒、訓練日数28.4±7.3日,24.5±5.0日であった。<BR>結果2(後方THAと前外側THAの身体機能に及ぼす影響)<BR>a.からg.の7項目において共分散分析の結果、すべての項目において、練習日数の影響はなかった(p>0.05)。次にt検定の結果、1)股関節角度a.屈曲、d.外転に差がみられず(p>0.05)、b.内転、c.内旋は前外側THAの方が大きかった (p<0.01)。2)下肢の周径e.大腿10、f.下腿最大どちらも前外側THAの方が小さかった(p<0.01)。3)g.歩行速度に差は見られなかった(p>0.05)。<BR><BR>【考察】<BR> 一般的に、手術後日数が経過するに従って身体機能は回復していく。そのため後方THAと前外側THAの効果を比較するために、日数を考慮に入れた上で分析を試みたが、影響はなかった。そこで、術式間で各項目を直接比較したところ、股関節角度において屈曲、外転に差はなく、内転、内旋に差が見られた。後方THAは術後、いわゆる脱臼肢位である股関節屈曲・内転・内旋や過屈曲が禁忌動作だが、前外側THAは、これらの制限から開放されたことから関節可動域全般の拡大が期待された。しかし、股関節内転、内旋の角度が増大したのは、実際には禁忌動作による制限がなくなったからに他ならず、屈曲、外転については改善が見られなかった。今後は積極的に関節可動域を改善させ、これまで困難であった靴下、爪切り動作などADL全般の拡大につなげていく必要がある。次に、大腿及び下腿の周径は、前外側THAの方が小さいことが判明した。当センターでは、概ね後方THAでは術後4週間で、前側方THAでは術後3週間で退院することが多く、練習日数が多い後方THAでは、屋外歩行練習、階段昇降練習など、よりダイナミックな練習をする機会が多かったためかもしれない。なお、一般的に歩行速度は、身体の回復に応じて速くなるが、ある程度まで達した後には定常化するため、アプローチ法による差が出なかったと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の研究を通じて前外側THAでは、より積極的な関節可動域の拡大と、爪切りなど生活動作の拡大、及び下肢周囲筋萎縮に対する予防的リハやフォローアップなど、後方THAに比べ、さらに重要性が増すことが明らかになった。本研究より、手術法の進歩に応じて、理学療法の早急かつ、適切な対応が重要であることが示唆された。<BR>

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548921472
  • NII Article ID
    130004582526
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p3144.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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