内側型変形性膝関節症に対する下腿内旋エクササイズの短期効果
説明
【はじめに、目的】 日本の変形性膝関節症(膝OA)の有病者数は、症侯性のものが約780万人、無症候性も含めると約2530万人と推定される。膝OAに対する運動療法として大腿四頭筋訓練、股関節周囲筋訓練、水中運動療法などが挙げられ、いずれの運動療法も一定の効果を示すことが報告されてきた。近年、膝OAの回旋キネマティクスに着目した研究により、膝OAではスクリューホーム運動が減少し、下腿外旋傾向にあることが報告されている。しかし、膝OAのスクリューホーム運動の回復を意図した運動療法は確立されていない。我々はこれまでに膝OAのスクリューホーム運動の回復を意図した下腿内旋エクササイズが及ぼす効果を検証し、膝OA患者の膝関節可動域、歩行時痛に即時効果が得られることを報告した。本研究の目的は、膝OAに対する下腿内旋エクササイズの短期効果を検証することとした。【方法】 取り込み基準は、一次性膝OAの診断を受けた女性、膝関節に伸展制限、4週間の介入期間に週2回以上エクササイズを実施可能とした。その他の疾患によって歩行能力が低下したり、神経症状が著明な者は除外した。15例30膝(年齢75.5±6.9歳、身長151.9±5.8cm、体重57.4±8.5kg)を対象とした。膝OAの進行度はKellgren-Lawrence分類のgrade2:18膝、grade3:8膝、grade4:4膝であった。JOAスコアは50点~95点。膝痛持続期間は3ヵ月~27年(中央値:7年)であり、これまでの治療(物理療法、薬物療法、ストレッチ、大腿四頭筋訓練など)期間は1日~4年3ヵ月(中央値:10カ月)であった。観察因子として膝関節可動域、Q角、立位大腿骨内側顆間距離、開眼片脚立位保持時間、10m歩行テスト(歩行タイム・歩数)、10段階ペインスケール(歩行時痛)を採用した。介入は、膝90度屈曲位での下腿自動内旋運動10回、下腿内旋位を保持したままの膝伸展運動10回、荷重位での下腿内旋から伸展運動10回(ニーアウトスクワット)、の3種目(約4分間)であり、これを週2回以上、4週間実施した。観察因子の測定は、介入前と介入4週間後に実施した。統計学的検定には対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき作成され、貞松病院倫理委員会で承認された同意書への署名により同意を得た。【結果】 エクササイズ前後に有意差が認められた項目は、膝関節屈曲可動域(前:131.1±15.9°、後:134.8±16.2°、P<0.001)、膝関節伸展可動域(前:‐10.0±6.0°、後:‐5.8±5.1°、P<0.001)、Q角(前:17.2±1.3°、後:15.8±0.9°、P<0.001)、10段階ペインスケール(前:10.0±0.0、後:4.3±3.2、P<0.001)であった。立位大腿骨内側顆間距離、開眼片脚立位保持時間、10m歩行テストでは有意差は認められなかった。【考察】 本研究の結果として、膝関節可動域の改善、Q角の減少、歩行時痛の改善が認められた。これは即時効果(吉田2011)と同様の結果であった。本研究の限界として、アライメントの評価が体表上で実施されているため精度に欠けることが挙げられる。また、コントロール群がないため本研究で得られた結果が直接的に下腿内旋エクササイズによるものと結論付けるには不十分であることが考えられる。しかしながら、対象者の大多数は介入前に保存療法を実施されており症状はプラトーであった。このような症例であっても下腿内旋エクササイズを週2回以上実施することで症状の改善を示す結果が得られた。以上を踏まえて、本研究の結論としては「下腿内旋エクササイズは膝OA患者に対し即時効果・短期効果が得られる可能性がある」とする。【理学療法学研究としての意義】 現在、膝OAのスクリューホーム運動の回復を意図した運動療法の効果を示した報告は見当たらない。本研究により、膝OAに対する新たな運動療法の手段として下腿内旋エクササイズの有効性が示唆された。今後は、無作為対照試験での研究が課題である。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2011 (0), Ca0231-Ca0231, 2012
公益社団法人 日本理学療法士協会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680548964224
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- NII論文ID
- 130004692905
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可