30秒椅子立ち上がりテスト結果の解釈についての検討

  • 山本 哲生
    ひろせ整形外科リハビリテーションクリニック リハビリテーション科
  • 山崎 裕司
    高知リハビリテーション学院 理学療法学科
  • 門田 裕一
    ひろせ整形外科リハビリテーションクリニック リハビリテーション科
  • 廣瀬 大祐
    ひろせ整形外科リハビリテーションクリニック 整形外科

説明

【目的】30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)は,下肢筋力の推測が可能なperformance testとして普及しつつある.しかし,我々の検討では,筋力水準が高い場合,身長の要因によっても測定結果が影響を受け,筋力を推測する上での限界が示唆された.先行研究においては,CS-30の成績と歩行速度との間に良好な関連を認めるとの報告がみられるが,これはCS-30が下肢筋力を反映した結果であるのか否かについては検討の余地が残されている.今回の研究では,CS-30と膝伸展筋力並びに歩行速度の関連を調査し,下肢performance testとしてのCS-30の結果解釈について検討した.<BR>【対象と方法】対象は,整形外科外来加療中の症例225名(男性42名,女性183名)である.年齢は70歳,身長151.1cm,体重55.6kg,BMI24.3であった. 疾患は重複例を含み,変形性膝関節症,変形性股関節症等の下肢疾患が149名,腰部脊柱管狭窄症,胸・腰椎圧迫骨折等の胸腰部疾患が106名,頚髄症,肩関節周囲炎が21名であった.これらの対象に対して,CS-30,膝伸展筋力,10m歩行時間,functional reach test(FRT)の計測を行った.なお,計測は疼痛などによる動作の制限がみられない状態で行った.CS-30は, 40cmの踏み台を用いて,30秒間の立ち上がり回数を記録した.膝伸展筋力はアニマ社製徒手筋力測定器μ-TasF1を使用し,ベッド上端座位,下腿下垂位での等尺性膝伸展筋力を測定した.左右とも3回の測定を実施し,左右の最大値の平均を体重で除した値を膝伸展筋力とした.10m歩行時間は,10mの前後に2mの加速,減速スペースを設けた歩行路で測定を実施した. CS-30,膝伸展筋力,10m歩行時間の関連については,Pearsonの相関係数を用いて検討した.次にCS-30と膝伸展筋力,身長,体重,年齢,FRTの関係について重回帰分析を行った.なお,筋力水準の影響について検討するため,立ち上がりに十分な筋力値として報告されている0.35kgf/kgを境として,対象者を0.35未満群,0.35以上群に分類した検討も行った.<BR>【説明と同意】対象者には,研究の目的と計測方法について具体的に口頭説明し,計測と研究データ使用についての同意を得た.<BR>【結果】全症例での,CS-30は14.5回,膝伸展筋力は39.1kgf/kg,10m歩行時間は6.9秒であった.0.35未満群は92名(男性9名,女性83名)で,年齢72.3歳,身長150.1cm,体重57.0kg,BMI 25.2,CS-30 12.9回,膝伸展筋力27.9kgf/kg,10m歩行時間7.66秒であった.0.35以上群は133名(男性33名,女性100名)で,年齢68.4歳,身長151.8cm,体重54.7kg,BMI23.6,CS-30 15.6回,膝伸展筋力46. 7kgf/kg,10m歩行時間6.51秒であった.膝伸展筋力とCS-30および膝伸展筋力と10m歩行時間の関係を全症例で見た場合,前者がr=0.39,後者がr=0.40の相関を認めた.同様に0.35未満群では、r=0.47,r=0.39の相関を認めた.0.35以上群では,有意な相関を認めなかった(r=0.22,r=0.25).一方,歩行速度とCS-30の間には,全症例を対象とした場合にr=0.57,0.35未満群を対象とした場合にr=0.58,0.35以上群を対象とした場合にr=0.54の強い相関を認めた.CS-30と膝伸展筋力,身長,体重,年齢,FRTの関係について重回帰分析を行った結果,全症例を対象とした場合と0.35以上群を対象とした場合,有意な偏相関係数は得られなかった.0.35未満群を対象とした場合,CS-30と膝伸展筋力の間にr=0.41の有意な関連が見られた.<BR>【考察】全症例,0.35未満群,0.35以上群のいずれを対象とした場合でも,CS-30と膝伸展筋力の間の相関係数は,歩行速度とCS-30の相関係数には及ばなかった.このことから,CS-30が下肢筋力の大小を反映した結果,歩行速度との間に有意な関連を認めるという仮説は成り立たないものと考えられた.全症例を対象とした場合や0.35以上群を対象とした場合,CS-30と膝伸展筋力の間には有意な関連はなく,CS-30を筋力単一要因の指標として捉えることは不適切であり,むしろ歩行のように種々の要素が混在した,下肢の動作能力の指標としてとらえるのが適切と考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】下肢筋力指標としてのCS-30の限界を明らかにした.妥当な下肢筋力の推測方法を開発する必要性を示唆できた点で本研究は意義あるものと考える.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P3138-C4P3138, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548989952
  • NII論文ID
    130004582520
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p3138.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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