発達障害児への在宅訪問事業への取り組み

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タイトル別名
  • ─保健所からの保健師同伴訪問をとおして─

抄録

【はじめに、目的】 約10年前までは主に医療保険制度のもとで業務を行ってきた理学療法士も介護保険制度の新設や在宅等の地域ニーズ、また、健康教育での活躍など、その活動の幅はかなり広がってきている。しかし、小児領域に於いては、いまだ通園施設等でのサービスが主となっており、在宅での療育をサポートする機会は少ない。今回は、演者が約15年間続けてきた保健所からの保健師同伴での在宅訪問指導事業を通して、社会保険制度を利用したサービスではなく行政サービスの視点から成果をまとめ今後の在宅療育への関心やサービス提供の一助としたい。【方法】 平成9年から今日に至るまで概ね月2回の割合で関わってきた大阪府下8保健所(述べ341ケース)の取り組みから、ケースの疾患名、年齢、ニーズ、助言内容等を分析し、理学療法士の観点から利点及び問題点について考察を行った。訪問は基本的に1ケース1回だが必要に応じて2~3回の訪問を行い、1回の訪問で1~2ケースを担当し、1ケースにつき1~2時間をかけケースの状況の把握、在宅での療育等について家族への指導・助言を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象となる保健所に対し、個人名や居住地が特定されない内容での学会発表について説明し了解を得た。【結果】 各保健所での取り組みは、地域性等の考慮から実施頻度等に違いがあるが、基本的に訪問のスタイルは同様で、保健所から1名の保健師と同伴で在宅訪問を行う。対象児は基本的に就学前の乳幼児で述べ285人。疾患としては、脳性麻痺、ダウン症、二分脊椎、また、その他の発達障がいとして神経筋疾患や染色体異常まで幅が広い。それぞれの割合については、脳性麻痺:24%、ダウン症:38%,二分脊椎症:5%、進行性筋ジストロフィー症:2%、その他の発達障害:31%であった。また、訪問目的(重複)としては、発達評価:76%、療育指導:94%、障害受容へのサポート:35%、環境整備:40%、その他:45%であった。以上を踏まえ、社会保険制度を利用した訪問と比べた場合の主な利点・欠点を以下に挙げる主な利点1.社会保険制度のもとでは、サービス提供時間に制限があるが、行政サービスでは制限がなく、専門職として時間をかけた児の評価ならびに家族指導が可能である2.療育施設等の整った環境とは違い、在宅環境を踏まえた具体的な療育について家族指導が可能である3.保健師との同伴訪問を行うことで、地域で児をフォローしていく立場である保健師へ専門的立場から助言することで、児のフォロー内容をより有意義なものにできる主な欠点1.ケースの選択は、基本的に保健所が行うため理学療法士は保健所が予定したケース宅への訪問となってしまう。2.ケース宅への訪問は、原則1回のみとなっており一度の訪問でニーズを把握し、ケースのバックグラウンドに応じた助言が必要となる。3.作業療法士や臨床心理士などとの連携は、基本的に保健師を通して行うため他職種との意見交換に時間を要する。【考察】 在宅訪問の形態は違うものの、これまでの取り組みから障害児を抱える家族等への在宅でのサポートは、一部、社会保険等から訪問リハビリテーションとして行われているものの、児に対する直接的な訓練が中心であることが多く、家族への療育サポートを主とした関わりについてはまだまだ不十分といった状況である。しかし、小児のリハビリテーションでは家族の関わりが重要となり、特に母親へのサポートは大切な位置づけである。その中で、障害受容に着目し適切にアドバイスを行うことは最も大切なことであるが、十分に心を開いてもらい理学療法士という専門的な立場からの助言を有意義なものとするためには避けることのできない課題であり、ケースによっては受容の段階の応じ相当な時間を要することも多い。行政サービスとしての在宅訪問は、社会保険で担うことの難しいこのような課題に対しても必要に応じた対応が可能な貴重なサービスになっており、今後も上記、利点及び欠点を踏まえ、より効果的なサービスが求められている。【理学療法学研究としての意義】 小児理学療法の臨床領域において、最近では一般病院や地域のクリニックなどでも小児疾患に携わる機会が増えている様だが、発達に障がいを抱えるこどもたちの生活の基盤である家庭まで踏み込んで、家族を中心とした療育者へのアドバイスはまだまだ不十分と言えるのではないだろうか。今回は、保健所という行政機関をとおしてのサービス提供を紹介することで広く関心を持ってもらうことに意義があると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Ed1468-Ed1468, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549049856
  • NII論文ID
    130004693631
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.ed1468.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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