足関節底屈筋群の痙縮に対する治療的電気刺激における最適な刺激点の検討

DOI
  • 田辺 茂雄
    藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科
  • 窪田 慎治
    藤田保健衛生大学七栗サナトリウムリハビリテーション部
  • 菅原 憲一
    神奈川県立大学保健福祉学部リハビリテーション学科
  • 村岡 慶裕
    早稲田大学人間科学部健康福祉科学科
  • 伊藤 慎英
    藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部
  • 金田 嘉清
    藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科

抄録

【はじめに、目的】 理学療法の臨床場面において,痙縮の改善を目的とした治療的電気刺激が広く用いられている.本手法は,痙縮が認められる筋の拮抗筋に接続する末梢神経に経皮的に電気刺激を行う.足関節底屈筋群に痙縮が認められる場合には,拮抗筋である前脛骨筋(tibialis anterior:以下TA)に接続する深腓骨神経に対して電気刺激を行う.本手法で十分な効果を得るためには,詳細な刺激部位の探索が重要である.すなわち,TAに接続する深腓骨神経,足関節底屈の共同筋である長腓骨筋(peroneus longus:以下PL)に接続する浅腓骨神経は腓骨頭下において近接しており,電極を少しずつ手で動かしながら,TAの収縮が大きく,PLの収縮が小さい点を探索する必要がある.しかし,過去の報告での刺激点の記載については,「腓骨頭周辺で適切な点を探索した」程度であり,具体的な刺激点についての記載がない.本研究の目的は,具体的な深腓骨神経,浅腓骨神経の刺激点を明らかにし,選択的な刺激が可能であるか検討することである.【方法】 対象は健常成人25名の両下肢合計50脚で,計測肢位は安楽な椅子坐位とした(股関節屈色120度,膝関節屈曲120度,足関節底屈20度).最適な刺激点同定の指標にはTAおよびPLの誘発筋電図を用いた.電気刺激には日本光電社製Neuropackを用い,1msの矩形波でTAのM波最大振幅が出現する刺激強度で刺激を行った.神経を選択的に刺激するため,陰極には直径5mm の表面電極(Su-Pb,カスタムメイド)を使用し,腓骨頭直下周辺を単極刺激法で刺激した.陽極には直径4mmの表面電極(Ag-AgCl,日本光電社製Vitrode M)を使用し,腓骨頭の後方に添付した.誘発筋電波形は日本光電社製Neuropackを用いて増幅し,20Hz-1kHzのバンドパスフィルタを通した後,A/D変換器を介してサンプリング周波数5kHzでPCに記録した.計測用表面電極には上述の陽極と同様のものを使用し,十分な皮膚処理を行った後にTAとPLの筋腹上に添付した.それぞれのM波最大振幅値を測定後,深腓骨神経,浅腓骨神経それぞれが刺激されている割合の指標としてTAのM波(%Mmax),PLのM波(%Mmax)の比率(TAのM波振幅/PLのM波振幅)をリアルタイムで算出し,その最大値が生じる部位,最小値が生じる部位を同定した.最大値は,主に深腓骨神経が刺激された際に生じ,最小値は主に浅腓骨神経が刺激された際に生じる.それぞれ刺激部位が決まった後,各部位で2秒ごとに10波形の計測を行い,比率平均値を算出した.その後,深腓骨神経を刺激した際の比率と浅腓骨神経を刺激した際の比率について,対応のあるt検定を用いて比較検討した.また,刺激点座標の算出においては,腓骨頭の下縁を原点とし,腓骨の外果へ結んだ線をY軸,それと直行する線をX軸として二次元座標を作成し,その中心座標を算出後,正規確率密度分布を用いて中心点からの分布割合を検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づいたものであり,藤田保健衛生大学の疫学・臨床研究倫理審査委員会において承認を得た後に計測を行った.被験者には実験について十分に説明を行い,計測の前に同意書に署名を得た.【結果】 深腓骨神経が最も刺激される部位での比率は3.8±2.8,浅腓骨神経が最も刺激される部位での比率は0.4±0.2で,有意に異なる値であった.また,それぞれの刺激点座標について,深腓骨神経は腓骨頭下方7±5mm,前方3±6mmが中心で,長径18mm,短径14mm程度の小さな楕円に全体の68%が含まれていた.一方,浅腓骨神経は腓骨頭下方20±7mm,後方12±8mmが中心で,長径27mm,短径15mm程度の比較的大きな楕円に全体の68%が含まれていた.【考察】 深腓骨神経,浅腓骨神経をそれぞれ刺激した際の比率(TAのM波振幅/PLのM波振幅)は有意に異なる値であり,選択的な刺激が可能であったと考えられる.また,本研究の結果から,具体的な深腓骨神経と浅腓骨神経の刺激点が明らかとなった.これらの刺激点は概ね解剖学的位置(解剖学的な腓骨頭下での神経の走行)と対応している.深腓骨神経の刺激点は腓骨頭の直下かつ前方の位置で,被験者ごとのばらつきは少なく集中していた.これは,総腓骨神経から分岐後すぐに,表層の筋群(長腓骨筋または長趾伸筋)が深腓骨神経を覆うためと考えられる.対照的に,浅腓骨神経の刺激点の被検者ごとのばらつきは大きい結果となった.これは,長腓骨筋に沿って体表に近い層を下行するため,その刺激点がばらついたと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 脳卒中片麻痺患者への治療的電気刺激療法は,理学療法で広く用いられている手法である.しかし,電気刺激点の同定に経験と時間を要すため,本治療を選択しない施設も多いのが現状である.本研究の結果は治療準備を容易にし,それにかかる時間を短縮する点において有用である.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2011 (0), Fb0806-Fb0806, 2012

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549082880
  • NII論文ID
    130004693666
  • DOI
    10.14900/cjpt.2011.0.fb0806.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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