一泊旅行体験が片麻痺者に与える影響

DOI
  • 梅澤 美保子
    医療法人社団永生会 訪問看護ステーションとんぼ
  • 中村 静江
    医療法人社団永生会 訪問看護ステーションいるか
  • 荒尾 雅文
    医療法人社団永生会 訪問看護ステーションとんぼ
  • 木野田 典保
    医療法人社団永生会 永生病院 リハビリテーション部

書誌事項

タイトル別名
  • 質的研究を用いて

抄録

【目的】<BR>当法人の在宅総合ケアセンターは、デイケアや訪問リハビリテーションサービスを利用している利用者に対して、年に1回、一泊旅行サービスを提供している。旅行中は、25名の参加利用者に対して、医療スタッフ(PT9名・OT3名・ST1名・Nrs4名・Dr1名・CW2名)が付き添い、外出への意欲や自信の獲得、機能向上などを目的に介入を行っている。しかし、障害者の旅行体験に関する先行研究は少なく、旅行体験が利用者にとってどのような影響をもたらしているか明らかとなっていない。本研究の目的は、一泊旅行体験が脳卒中片麻痺を有する利用者にとってどのような影響を与えているのか、質的研究を用いて明らかにすることである。<BR><BR>【方法】<BR>平成22年9月8日~9日に行った当法人の旅行サービスに参加した脳卒中片麻痺者5名に対して、旅行後に旅行体験に関する内容の半構造化面接を実施した。対象者は、65~80歳の女性2名、男性3名、疾患は右脳塞栓症、右脳梗塞、右脳出血、介護度は要介護1~3であり、Mini-Mental State Examinationが20点以上獲得できるものとした。主要な質問はインタビューガイドに沿って行った。インタビューは利用者の集中力や疲労を考慮し40分以内とし、インタビューの内容をICレコーダーにて録音した。また、インタビューデータの分析には修正版グラウンテッドセオリーアプローチを使用した。<BR><BR>【説明と同意】<BR>全ての対象者に対し研究の主旨・方法・人権保護について口頭で説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>得られたインタビューデータより注目すべき点を抽出し、具体例として分析ワークシートに挙げ、分類を試みたところ、以下の5項目の概念があがった。<BR>1「狭小化する生活範囲と悲観的な生活観」は、「現実に対する悲観と将来への不安」、「バリア環境に対する戸惑い」、「制限される外出機会への想い」という3つの定義から成り立っている。<BR>2「リハビリスタッフによって得られる精神・身体的援助」は「リハビリスタッフによって得られる精神・身体的援助」という1つの定義から成り立っている。<BR>3「再発見する自己の可能性」は「自己能力への気づき」、「得られた成功体験」の2つの定義から成り立っている。<BR>4「精神的な充足感」は「広がる他者との交流」、「環境の変化によってもたらされる感動や感情変化」、「変化の無い身体感覚」の3つの定義から成り立っている。<BR>5「新たな目標と共に得られる希望」は「更なる外出意欲の向上」という1つの定義から成り立っているが、3と5の概念に重複して「獲得された自信」、「具体化される課題と目標」という定義が存在している。また、4と5の概念に重複して「前向きな思考への転換」、「環境の変化による気分転換」が存在している。<BR><BR>【考察】<BR>1「狭小化する生活範囲と悲観的な生活観」より、維持期の片麻痺者は、障害の悪化や再発への不安を抱え、かつ自由に外出をする事が出来ず、閉鎖的でワンパターンな生活を悲観的に感じている事が推察された。旅行体験は、片麻痺者の悲観的な生活観や想いを、3「再発見する自己の可能性」4「精神的な充足感」5「新たな目標と共に得られる希望」へと変化させている。旅行における環境変化は非日常的な体験をもたらし、他者との交流や気分転換により前向きな思考への転換が得られていると考える。また、デイケアや訪問リハビリにて関わっているスタッフが同行したことは、利用者の動作に安心感を与えていた。特にバスの乗り降りや温泉入浴、宿泊などの動作において、リハビリスタッフが日常の身体能力を引き出せるような介入を行ったことは、自己能力への気づきや成功体験をもたらし、自信の獲得や目標の具体化を促進していると考える。旅行体験によって精神的な充足感と自己の可能性を感じる事は、悲観的であった片麻痺者の意識を前向きに変化させ、更なる外出意欲の向上や生活に希望をもたらす一助となっていると推察する。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>旅行体験は維持期の片麻痺者において、外出意欲の向上や自信の獲得、前向きな気持ちへの転換などをもたらす可能性が示唆された。当法人の旅行サービスに参加する事をきっかけとして、家族との外出・旅行へつなげていけるために、今後旅行サービスの形態や内容の工夫、民間企業との連携などを検討していく必要がある。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2010 (0), EcOF2109-EcOF2109, 2011

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549160448
  • NII論文ID
    130005017770
  • DOI
    10.14900/cjpt.2010.0.ecof2109.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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