脳血管障害者における屈筋共同運動と伸筋共同運動の違い

  • 佐久間 香
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 日本学術振興会特別研究員
  • 大畑 光司
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 北谷 亮輔
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 橋口 優
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 山上 菜月
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 渋田 紗央理
    京都大学医学部附属病院
  • 古谷 槙子
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
  • 市橋 則明
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

書誌事項

タイトル別名
  • 随意筋力との関係に着目して

この論文をさがす

説明

【はじめに、目的】脳血管障害後片麻痺者(以下,片麻痺者)で顕著に観察される共同運動は,屈曲共同運動と伸筋共同運動に大別され,運動機能の回復段階を示す指標として広く用いられている.また,共同運動の存在が運動機能の回復を阻害する要因の1つと捉えられることも多い.そのため,共同運動の特徴を明らかにすることが,片麻痺者の理学療法を行う上で重要だと考えた. 等尺性筋力発揮時に他の関節に生じた筋活動や筋力を測定する方法は,共同運動を定量的に評価する方法の1つとされている.この方法を用いて,随意筋力を発揮すると健常者も片麻痺者も他関節に副次的な筋力が生じるが,片麻痺者で大きく,健常者と異なる方向に生じる関節もあることが報告されている.また,片麻痺者では主働筋と拮抗筋の筋力の不均衡が大きく,拮抗筋の筋力が低い関節ほど共同運動としての筋力が出現しやすいことも報告されている.このことから,随意筋力の発揮が共同運動に関連する神経機構を惹起する可能性が示唆されている.しかし,屈筋共同運動や伸筋共同運動が随意筋力とどのような関係になっているのかは明らかにはなっていない. そこで本研究では,随意的な筋力発揮時に他関節に生じた筋活動を共同運動とし,下肢における屈筋共同運動と伸筋共同運動の違い,それぞれの共同運動とBrunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)や随意股,足関節筋力との関係を調べることで,共同運動の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は地域在住の片麻痺者27名(下肢BRS3以上,平均年齢52.1±14.6歳,男性19名,女性8名,平均罹患期間5.4±5.8年)とした.共同運動の評価として,随意股関節筋力発揮時に生じる足関節の筋活動を測定した.屈筋共同運動では股,膝関節屈曲90度の座位姿勢で,随意最大等尺性股関節屈曲筋力を3秒間発揮させた時の前脛骨筋の筋活動を,伸筋共同運動では股,膝関節伸展0度の背臥位で,随意最大等尺性股関節伸展筋力発揮時のヒラメ筋の筋活動を筋電図(Noraxon社製:テレマイオ2400T)にて測定した.得られた筋電図の生波形を全波整流し,50msのRoot mean square(RMS)を求め,随意最大等尺性収縮時のRMSを100%として正規化し,最大値を含む1.5秒間の平均値を解析に用いた.また,随意最大等尺性股関節屈曲筋力,伸展筋力,足関節背屈筋力,底屈筋力を徒手筋力計(アニマ社製:ミュータスF 1)にて2回測定し,トルク体重比を算出して解析に用いた. 屈筋共同運動と伸筋共同運動との関係,それぞれの共同運動とBRSや随意股,足関節筋力との関係をSpearmanの順位相関係数を用いて調べた.統計学的有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は京都大学大学院医の倫理委員会の承認を受けて行われ,対象者には研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.【結果】随意股関節屈曲筋力発揮時に生じる前脛骨筋の筋活動は最大随意収縮の111.2%であった.一方,随意股関節伸展筋力発揮時に生じるヒラメ筋の筋活動は54.1%であった.前脛骨筋とヒラメ筋の筋活動には有意な相関関係を認めなかった.BRSとの関係は前脛骨筋の筋活動にのみ認め,BRSが良い人ほど小さかった(r=-0.639).随意足関節背屈筋力が大きいほど前脛骨筋の筋活動が小さく(r=-0.501),随意足関節底屈筋力が大きいほどヒラメ筋の筋活動が小さかった(r=-0.479).また,前脛骨筋とヒラメ筋の筋活動ともに,主働筋である股関節筋力とは相関を認めなかった.前脛骨筋の筋活動にのみ拮抗筋である底屈筋の随意筋力と相関を認め,底屈筋力が大きいほど小さかった(r=-0.466).【考察】屈筋共同運動の指標とした前脛骨筋の筋活動は111.2%と最大随意収縮より大きかったが,伸筋共同運動の指標としたヒラメ筋の筋活動は54.1%と小さかった.また,屈筋共同運動と伸筋共同運動の大きさには関係を認めなかった.このことから,屈筋共同運動と伸筋共同運動の生じやすさが異なることが示された. BRSは屈筋共同運動とのみ関連した.これは,BRSに足関節底屈運動の評価が含まれていないためであり,本研究で用いた屈筋共同運動の定量的評価方法については,臨床で広く用いられているBRSの回復段階を反映していると考えられる. 屈筋共同運動と伸筋共同運動ともに共同運動が生じた筋の随意筋力が大きいほど小さかった.このことから,屈筋共同運動と伸筋共同運動の共通した特徴として,随意筋力を発揮できる筋ほど共同運動が出現しにくくなることが考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究は,片麻痺者の屈筋共同運動と伸筋共同運動との違いを明らかにするものであり,共同運動の特徴を知る手掛かりとなったと考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100359-48100359, 2013

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ